6月3日に行われた韓国の大統領選挙は、世界中のメディアや政治ウォッチャーにとってかなり興味深い政治イベントとなった。前大統領による戒厳令やその後の弾劾など、数カ月にわたる混乱の後に実施された今回の選挙は、韓国民主主義の回復力と市民参加の高さをあらためて印象づけるものとなった。
今回の選挙戦でとくに注目を集めたのは、「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)候補の劇的な人生ストーリーだった。困難な少年時代を乗り越え、労働者から人権弁護士に、そしてついに大統領候補にまで上り詰めたというイ候補に対して、AP通信は「不平等や腐敗と闘うと誓った代表的な進歩政治家」とも評価した。
しかし一方では、イ候補とキム・ヘギョン夫人には、過去に複数のスキャンダルも報じられてきた。イ候補は市長や知事時代の訴訟や家族をめぐる疑惑、夫人も公職選挙法違反や公金流用疑惑などで捜査の対象ともなっていた。実際、いまだに継続されている裁判もある(しかし、大統領になったことでこれまで起訴されていた検察の捜査は全面的に中断される予定だ)。
しかし、こうした逆風にもかかわらず、イ候補は高い支持と劇的な人生物語で大統領の座を勝ち取ったのだ。
ムン・ジェイン元大統領の時代に回帰か?
イ・ジェミョン新大統領は、ユン・ソンニョル(尹錫悦)前大統領の非常戒厳令により国会が閉ざされた際には、移動中の車のなかから生配信しながら、「みなさん、国会に集合してください」と真っ先に呼びかけた。そして、国会前の兵隊から立ち入りを禁止されると、先頭に立って国会の壁を乗り越えてなかに入った。
イ新大統領は女性からの支持が多いが、こうしたドラマチックなパフォーマンスがまた女性たちの心を掴んだのかもしれない。
とはいえ、イ大統領の誕生で、日本がいちばん気に留めているのは、今後の日韓関係だと思われる。イ大統領は選挙期間中、「米韓同盟を基盤とした国益重視の実用外交」を掲げ、日本を「重要な協力パートナー」と位置付けた。
イ大統領は「日米韓協力を強固にする」と強調しつつも、対日外交については「歴史問題や領土問題には原則的に対応し、社会や文化、経済分野では未来志向で臨む」という「ツートラック戦略」を示した。慰安婦や徴用工、独島(竹島)などの歴史や領土問題には断固とした姿勢を見せつつも、経済や安全保障、文化協力など実利が絡む分野では前向きなアプローチを取る考えだ。



