欧州

2025.06.06 10:00

「NATO崩壊」視野に次の手を模索、リトアニア前外相 米国との信頼が揺らぐ中

リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス前外相。2021年9月28日撮影(Horacio Villalobos#Corbis/Corbis via Getty Images)

ランズベルギス前外相自らが考えている次の手は、自身の故郷であるバルト三国を起源とするものだ。リトアニア、ラトビア、エストニアから成るバルト三国は、ロシアによる侵略の脅威について世界に警告し、対ウクライナ支援でも先頭に立ってきた。バルト三国は第二次世界大戦末期にソビエト連邦に併合され、1991年に独立するまでの約50年間にわたって占領されてきたことから、ロシアの帝国主義の脅威について、身をもって理解していると言えるだろう。

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独キール世界経済研究所によれば、同じくバルト海に近いデンマークとバルト三国は、米国を含む他のどの国よりもウクライナ支援に多額の資金を費やしてきた。国内総生産(GDP)に占める対ウクライナ支援の割合は、米国ではわずか0.5%であるのに対し、バルト三国では1.5~2.2%に上っている。

だが、総人口600万人強というこれら3つの小国だけでは、NATOの代わりを務めることは期待できない。しかし、ランズベルギス前外相は、同じくバルト海近隣の他の7カ国、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、ポーランド、ドイツと連携すれば有利になると考えている。これら10カ国はすでにバルト海沿岸諸国評議会(CBSS)という国際組織を形成している。ランズベルギス前外相とエストニアのトーマス・イルベス元大統領は、このCBSSを強力な地域同盟として再構築し、生まれ変わらせることができると考えている。

同評議会は1992年、ソ連の影響圏から抜け出したばかりのバルト三国とポーランドが、欧州の仲間に加わることの意味を理解するための場として、一種の入門者クラブのような形で結成された。すなわち、CBSSが当初の使命を終えたのはかなり前のことになる。

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ランズベルギス前外相は、「われわれがNATOは十分に強力だと感じている通常の状況であれば、このような会話は行われないだろう」と指摘する。世界は変化しつつあるとした上で、代わりとなる安全保障が必要だと述べた。

同前外相はCBSSを「有志連合以上のもの」とみている。同評議会はトップが交代制で、作業部会や事務局、職員など、すでに組織基盤が整っている。短期的には、CBSSは破壊活動や偽情報作戦、海底ケーブルの破損といったロシアのハイブリッド戦争への対応に焦点を当てた政治的な議論の場となるだろう。しかし、状況が悪化し、NATOが軍事力と影響力を失い続けると、地域防衛計画や軍事的な調整など、CBSSの役割が拡大することになるかもしれない。

ランズベルギス前外相によると、バルト三国は神経質になっている。同前外相は、フランスとポーランドが先月署名した二国間安全保障協定を例に挙げ、「フランスはワルシャワが欧州の東端だと思っているのだろうか? つまり、われわれは自らを守らなければならないということだ」と指摘した。一方、現在、GDPに占める国防費の割合がNATO最大であるポーランドと、新たに再軍備を進めているドイツを含むCBSSは、相当な軍事力を持つことになるだろう。ランズベルギス前外相は、ドイツは向こう数年間で5000億ユーロ(約82兆円)もの国防費を支出する計画だとした上で、北欧に注目し続ける必要があると強調した。

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翻訳・編集=安藤清香

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