欧州

2025.06.06 10:00

「NATO崩壊」視野に次の手を模索、リトアニア前外相 米国との信頼が揺らぐ中

リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス前外相。2021年9月28日撮影(Horacio Villalobos#Corbis/Corbis via Getty Images)

リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス前外相。2021年9月28日撮影(Horacio Villalobos#Corbis/Corbis via Getty Images)

リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス前外相は、北大西洋条約機構(NATO)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する懸念について、「シュレーディンガーの猫(訳注:相反する状態が重なり合って存在する状況)」という量子力学の用語を使って説明した。

筆者の取材に応じたランズベルギス前外相は、「われわれは曖昧な立場にある」と語った。米国のドナルド・トランプ大統領は欧州に対し、NATOへの費用負担を増やさなければ米国は離脱すると脅すなど、扇動的な発言をしている。他方で、マルコ・ルビオ米国務長官は先月、ベルギーの首都ブリュッセルで開かれたNATO外相会合に姿を現し、欧州加盟国の指導者らを安心させた。ランズベルギス前外相はこれを「状況の正常化」と呼び、「NATOは試されていると同時に、試されていない」と語る。このように、NATOには混乱と不確実性が渦巻いている。これはプーチン大統領にとってはぞくぞくするほど完璧な機会を生み出す。

このシナリオがどのように展開するのかは想像に難くない。もしプーチン大統領が米ホワイトハウスに、ロシアとの関係を改善すれば米国が利益を得られると説得できれば(同大統領はすでにそれを確信しているようだが)、たとえNATO加盟国が攻撃されたとしても、トランプ大統領はその機会を危険にさらすことをためらうかもしれない。

それはランズベルギス前外相にとって最悪の悪夢だ。「トランプ大統領はこう言うだろう。『私はプーチン大統領と話し合っているところだ。これをほごにすることなどできない。君たちには申し訳ないが、力にはなれない。自分たちのことは自分たちでやってくれ』と」。ランズベルギス前外相は、プーチン大統領はすでに米国を一種の「宙に浮いた状態」に追い込み、NATOにとって重大な危険をもたらしているとみている。プーチン大統領は今こそ行動を起こし、欧州の現実を変えようとしているのかもしれない。

欧州各国の首脳はNATOの次の手を検討し始めている

欧州各国の首脳がNATOの次の手について検討し始めているのも不思議ではない。トランプ大統領はかねてより加盟国に対し、米国はNATOから脱退すると脅してきたが、実際にそうする必要はない。冷戦時代から同盟国を守り、敵を抑止してきたNATOの信頼を、同大統領はすでに破壊しかけているからだ。

欧州諸国が考えている次の手の1つは、ウクライナを支援するために結集した「有志連合」だ。これはトランプ大統領が2月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と激しい口論を繰り広げたことを受け、結成されたものだ。この連合の目標は、対ウクライナ軍事支援の継続のほか、ロシア政府との交渉の強化、ウクライナ国内に駐留する欧州の「安心供与部隊」が公正で永続的な平和を保証することだ。

一方、ランズベルギス前外相は先月、「有志連合が実際に何か意味のあること、ましてや形勢を一変させるようなことをする意志があるという証拠を見つけるのがこれほど難しいのはなぜなのか?」と述べ、この取り組みを厳しく批判した。同前外相は筆者に対し、有志連合の前提自体は間違っていないが、「われわれは世界が崩壊していく様子を目の当たりにしている。ここで脅威を回避するためには、それ以上のことをしなければならない」と説明した。

次ページ > ランズベルギス前外相自らが考えている次の手は?

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事