長期的な視点から見れば、米国の金融システムを抜きん出た存在に押し上げたブレトンウッズ体制をトランプは決定的に粉砕した。1944年に米ニューハンプシャー州のブレトンウッズ開かれた会議では、世界の新たな金融秩序の形成をめぐって英国と米国が激しい火花を散らし、その結果として国際通貨基金(IMF)のような国際機関が生まれた。勝利したのは紛れもなく米国であり、これにより「覇権国」の地位は名実ともに英国から米国に移った。
この会議に英国代表団の団長として送り込まれたのは、経済学者のジョン・メイナード・ケインズだった。彼は早くも1917年、母親に宛てた手紙にこう記していた。「あと1年もすれば、わたしたちは新世界(米大陸)で築いてきた権益を失い、代わりにこの国(英国)が米国に担保として差し出されることになるでしょう」。英国代表としてケインズに託されていた任務は、英国が「完全に面目を失い、ドル外交に完全に屈服したように見える」(本人による1943年の英外務省職員宛て文書)のを避ける合意に向けて交渉することだった。
しかしブレトンウッズ会議以降、米国の金融支配力は拡大した。それを端的に示すのが国際取引でのドルの広範な使用であり、ドルは金融システムの要として特別な地位に上りつめた。20世紀の世界秩序とグローバリゼーションの進展を支えた最も重要な基本原理のひとつは、基軸通貨としてのドルだった。
ドルは金融システムにとってあまりに重要なものになっているため、経済学者のピエールオリヴィエ・グランシャとエレーヌ・レイは比較的最近の論文で、法外な特権という概念を一歩進めて「法外な義務」という概念を提示しているほどだ。これは、危機に際してドルと米国の金融システムがセーフヘイブンの役割を果たすことを指している。たとえ、その危機の発生源が米国自体であってもだ。憂慮すべきことに、一つの壮麗な法案には、特定の状況下で政権に米国資産の保有者への課税を認める条項(第899条)が盛り込まれており、これは投資家の信頼をますます損なうおそれがある。


