一歩踏み出すことが持つ、目立たない力
正確さを重視するエンジニアリング会社も、その好例だ。良い仕事をする従業員は、ミスを発見すると上司に報告し、解決策を提案していた。これは、堅実で責任感のある行動だ。一方、素晴らしい仕事をする従業員は、それらをすべてした上で、さらに一歩踏み出していた。ミスをチーム全体に共有し、ほかの従業員が同じミスをしないよう、学習の機会を作っていたのだ。
ここでもやはり、両者の違いは技術的なスキルや知能ではなかった。ただ個々のタスクを完了させるだけでなく、他者のパフォーマンスを高めるための選択をしたかどうかだ。
こうしたパターンは、業界や役割を超えて広く見られる──良い仕事とは、割り当てられた仕事を受け入れることであり、素晴らしい仕事とは、自らその仕事を引き受けることだといえる。
良い仕事が、変化を支持することだとすると、素晴らしい仕事は、変化を推進し、他者を巻き込むことだ。良い仕事とは「タスクを完了すること」であり、素晴らしい仕事とは「チームメイトが成功するよう支援すること」なのだ。
実力が発揮できない原因は?
その数学的な意味合いは驚異的だ。冒頭で紹介したように、マネージャーたちは、現在、従業員のうちピークレベルのパフォーマンスを発揮している者は約36%だと答えた。しかしそうした組織は、莫大な価値を無駄にしていることになる。その割合が36%から60%に上昇した場合(つまり、素晴らしい仕事をする従業員が67%増加した場合)の影響を考えてみてほしい。
この調査結果は、これが単なる希望的観測ではないことを示唆している。従業員は多くの場合、素晴らしい仕事に必要なスキルや知識をすでに持っている。彼らは単に、自分の状況における「素晴らしい仕事」がどういうものなのかを明確に理解していないか、最高のパフォーマンスの特徴である自主性やコラボレーションを阻害するシステムの中で働いているかのどちらかなのだ。
言葉で具体的に描写するリーダー、言語化するリーダーの存在
この調査で最も成功していた組織には、良い仕事と素晴らしい仕事の違いを、「言葉によるわかりやすい描写(word picture)」によって、明確に表現するリーダーが存在していた(つまり、「パフォーマンスのレベルを区別する、具体的かつ観察可能な行動」を明確に説明する、ということだ)。良い仕事と素晴らしい仕事について、何がどう異なるのかを言語化するリーダーが存在したと言ってもいい。
こうしたリーダーたちは、素晴らしい仕事を説明するときに、「期待を超える」や「期待以上の成果を上げる」といった曖昧な概念を使うことはなかった。その代わりに、素晴らしい仕事とはどのようなものかを明確にイメージしていた。
例えば、新しいソフトウェアシステムの導入が必要な場合、「良い仕事をする従業員」と「素晴らしい仕事をする従業員」ではどのように反応が異なるかを正確に説明した。
こうした明確さは、ふたつの重要な目的を果たす。つまり、従業員に対して具体的な目標が示される一方で、マネージャーは、従業員の素晴らしい仕事を認識して、それを強化できるということだ。


