私がサステナビリティについて学んだのは、大学の教室ではなく、一面の畑の中でした。当時私は、デザイン&イノベーションファーム IDEOのリサーチャーとして、テクノロジーが農業の未来をどう支えるかを模索していました。
畑で話を聞いた男性は、都会での生活に疲れ、祖父母の土地に移住して農業を始めたばかりの元ITエンジニア。彼は、自分の畑では化学肥料を使わず、微生物・菌類・昆虫・ミミズなど土壌の生き物たちを丁寧に育てている、と教えてくれました。
これらの生き物は、土壌を改善し、作物を病気や害虫に強くしていきます。そう、まるで人が「免疫」を育てるかのように。症状を抑えるのではなく、身体そのものを強くする、レジリエンスのアプローチです。
実はその少し前、私は腸内細菌と美肌の関係を調査していました。そのなかで、発酵食品を積極的に摂ることで、体内の微生物生態系を整え、健康を維持している人たちの話を聞くことがありました。土壌にとっても、人間にとっても、「自然のシステム」を活かすという原則が、健全さ、適応力、長期的な成長に繋がっている。この気づきは、私に新たな視点をもたらしました。
私たちのビジネスや社会の活動も、「自然のシステムと共に機能している」という前提に立つ必要があるのではないか? その構造を理解し、共に機能するようにデザインできれば、より高いレジリエンスが備わるはず──。
この確信をもって、私は国際環境保全NGO「コンサベーション・インターナショナル/Conservation International」(以下、CI)で働くことを決めました。CIは、自然を軸に、科学、ファイナンス、地域社会をブリッジし、企業が自然環境に対して、相互にwin-winになるような形で投資することを支援しているからです。
自然は“コスト”ではなく“戦略的資本”である
自然は、ただ美しいだけの存在ではありません。水を浄化し、気候を調整し、沿岸を守り、人や企業が必要とする原材料を育て、静かに、確実に、経済活動の基盤として「機能」しています。実際、世界のGDPの50%以上(約44兆ドル)は自然に依存しているという試算もあります。
しかし、かつて“無限”と思われていたその自然が、今や危機に瀕している。この状況において、企業や政府が、水・炭素・生物多様性といった「自然が人類に提供するサービス」に対価を支払う形で、資源を保護、保全、継続的に管理する仕組みが各地で生まれています。



