もう一つの重要な道筋が、持続可能な生産です。コーヒー、カカオ、マグロ、大豆、綿といった、自然資源に依存する企業にとって、土壌の肥沃度、水質、受粉、生物多様性といった問題は、健全なビジネスの中核そのものです。だからこそCIでは、生産者・バイヤー・投資家と連携しながら、保護と生産を直接結びつけるシステムの設計に取り組んでいます。
こうした取り組みの一例が、スターバックスが2000年代初めにコンサベーション・インターナショナルと共同開発した「 C.A.F.E.プラクティス」です。このプログラムは、透明性が高く、収益性と持続可能性を両立する農業を支援することを目的としており、200以上の指標と第三者による検証によって経済・社会・環境といった側面を評価します。
これまでに、約30カ国・45万人以上の生産者がこの基準を採用しており、スターバックスの調達戦略の中核をなす取り組みとなっています。現在では、同社が調達する99%のコーヒーが、この基準を満たす生産者たちから仕入れられています。
資源を搾取することで価値を生むのではなく、再生させることで価値を生み出す。こうしたモデルはまだ途上ですが、世界各地で、生計を支え、サプライチェーンを強化しながら自然を回復させる持続可能な生産が可能であると実証され始めています。
日本は、ルールメイカーになるチャンスがある
日本はこれまでも、イノベーションにおける「忍耐強い資本(patient capital)」の価値を実証してきました。水素技術への数十年にわたる投資や、富士フイルムによるヘルスケア分野への大胆な事業転換などがその好例です。そして今、同じような長期的視点こそが、自然資本への投資において求められています。
この長期的な視点は、社会や経済の随所に根付いています。たとえば、株主中心ではなくステークホルダーを重視する企業ガバナンス、世代を超えて継承される伝統産業の職人文化、"メンテナンス”や“継続的改善(カイゼン)”の思想などです。これらは単なる文化的特徴ではなく、持続可能でネイチャー・ポジティブな社会を求める世界において、日本が持つ戦略的な強みと言えます。
言い換えれば、短期的成果を求めがちな世界において、日本には今後、自然への投資をリードできる可能性があります。実際、すでに多くの日本の金融機関・企業が、自然資本の情報開示を進める国際枠組み「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」への貢献を始めています。
自然資本や気候ソリューションの市場は、いままさに立ち上がろうとしています。この段階で関与することは、勇気ある一歩であると同時に、戦略的な優位性にも繋がります。先に動くことは、「ルールをつくる側」に立つことになるのです。


