「web3ホワイトペーパー」を手がける弁護士が語るNFTの法的論点
河合 健|弁護士、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業パートナー
日本ではデジタルトークンについて、暗号資産に該当するもの、ステーブルコイン(電子決済手段)に該当するもの、セキュリティトークン(有価証券)に該当するもの、金融規制がかからないものなどが規制法上比較的明確に分類されている。そのため、デジタルトークンに対する法規制があいまいな国に比べて、(NFTを用いたビジネスなどが)やりやすい側面はある。
とはいえ、NFTの活用を推進するために対処すべき論点は残されている。特にNFTが何を表章しているのかについては未だあいまいな点が多い。
アートを例に挙げよう。「デジタルアートのNFTを売買した」というとき、具体的に何を取引したのかを明確に示す必要がある。NFTはあくまでブロックチェーン上で発行されたトークンにすぎない。NFTを買ったからといって、NFTに紐付けられたデジタルコンテンツの著作権や商標権、パブリシティ権などを保有しているとは限らないのだ。これらの権利の帰属が不明確だと権利侵害のリスクが生じたり、購入者が 騙されたりする可能性がある。
このような事態を避けるためには、事業者が購入者に対して、何を販売の対象とし、どのような権利をNFT保有者に付与するのかを明示した書面を出すなど、透明性を担保するためのルールの整備が求められる。だが、法制度の整備には時間がかかる。まずは事業者側が自主的に取引の透明性を推進し、良質な事業者がマーケットで選別されていくのが現実的だ。
他方、日本はマンガやアニメ、音楽など、独自の強みをもつコンテンツを数多く保有している。海外を中心に、第三者がこれらのコンテン ツを表章すると称するNFTを無許諾で発行したり、販売したりしている事例がみられる。コンテンツホルダーと政府機関が協力しながら、こうした事態に適切に対処することも重要な課題のひとつだ。RWAのトークンについても注意が必要だ。
RWAに関してはデジタル技術の発展に現行の法制度が追いついておらず、権利関係においては現物資産に関する現行の法制が優先される。そのため、トークンが移転しただけでは現実世界での権利関係は何も変わらないのが現状だ。
仮に、マンションの一室を表章するNFTについて考えてみよう。NFTの購入者に部屋の区分所有権が与えられるようにNFTをつくろうとしても、現行のシステムではそうはならない。マンションには不動産登記制度が適用されるからだ。NFTの売買を通じて不動産売買に関する当事者間の合意があったとみなすことはできる。だが、不動産の所有権移転登記をしない限り対抗要件(当事者間で効力のある法律関係が、第三者に対して効力を有するための要件)は具備できない。そのため、売り手が第三者に部屋の区分所有権を譲渡し、先に登記を具備してしまえば法的な勝ち目はない。
絵画や美術品についても同じことが言える。動産の民法上の対抗要件はモノの引き渡しなので、今まさに手元に絵をもっている人がほかの人に現物を引き渡してしまえば対抗要件で負けてしまう。そのNFTが具体的に何を表章しているのか、現行の法制度との間で「権利の分離」が起きていないかなどに、より注意を向ける必要がある。
KEYWORD |セキュリティトークン
ブロックチェーン技術を活用して 株式や社債などの有価証券に表示される権利をデジタル化したもの。データの改ざんリスクを軽減できるなどの点から注目を集めている。
かわい・けん◎東京銀行・東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)を経て2009年弁護士登録。主にFinTech、ブロックチェーン、デリバティブ、金融規制、スタートアップ支援、デジタル関連法務を取り扱う。自民党デジタル社会推進本部 web3 ワーキンググループメンバー。


