一時的な熱狂を経て、「オワコン」とまでいわれたNFTが新たな局面を迎えている。NFTは社会課題の解決につながるのか。3つのキーワードから、NFTの可能性と課題を考える。
2021年から世界的なブームとなったNFT(非代替性トークン)。Twitter(現X)の共同創業者ジャック・ドーシーのツイートがおよそ3億円で落札されたり、はたまた無名の子どものイラストが高額で取引されたりと、ニュース性のある話題に世の中が沸いた。しかし、投機バブルの崩壊や暗号資産の価値の減損などの影響でブームは沈静化。「NFTは死んだ」との声まで聞かれた。
あれから4年近く経った今、さまざまな事例を取材するなかでNFTの新たな局面が見えてきた。本リポートでは、NFTを活用した社会課題解決の可能性と課題についてユースケースをもとに考えていく。キーワードは3つ。「二次流通」「貢献の可視化」「地方創生」だ。
NFTで「転売ヤー」を排除する
25年3月下旬、自由民主党の知的財産戦略調査会でひとりの起業家が講演をした。イベントの公演チケットを中心に、モノの所有権やサービス利用権をNFT化して販売するプラットフォームTicketMeを手がけるチケミーCEOの宮下大佑だ。
チケットの高額転売行為が社会問題化するなか、東京地方裁判所は3月中旬に「チケットの不正転売は主催者の権利を侵害する」との判断を示し、転売チケット出品者の発信者情報の開示を命じる決定を下した。その矢先に開かれた会合で、宮下はNFTを活用したチケット流通のあり方と今後の可能性についてプレゼンテーションを行った。
チケミーのNFTチケットは購入から保管、入場までの一連の購買プロセスをブロックチェーン上で管理している。履歴はすべてブロックチェーン上に記録されるため追跡可能だ。「購入やリセールの履歴が透明化されるため、不正な転売を発見しやすくなる」と宮下は言う。不正転売を抑止し、健全な二次流通市場の形成を目指す。
チケミーのNFTチケットはリセールが標準機能としてあり、急用などで行けなくなったりしてもすぐに売りに出せる。ユニークなのは、リセール時にイベント主催者に収益が還元される点だ。NFTチケットが第三者に転売された場合、発生した差額の最大9割が主催者に還元される。転売価格の上限設定も可能だ。
NFTを活用して透明性が高いセカンダリーマーケットをつくる動きはホテルや飲食などのサービス業態でも広がりを見せている。25年2月に誕生した、NFTを活用した宿泊権の新たな流通形態「THE GRAND HOTEL COLLECTION」もそのひとつだ。第1弾となるTokyo Collectionでは、ザ・キャピトルホテル 東急、グランド ハイアット 東京、THE AOYAMA GRAND HOTELが参画。これらのホテルのデジタル宿泊権を通常よりも3割から5割安い7万円前後で提供する。
このサービスを手がけるのは、Fosun Real World Asset(以下、FRWA)だ。中国・上海に本社を構えるFosun Internationalの子会社であるFosun Entertainment Japanと、ブロックチェーン技術を専門とするHashPortのジョイントベンチャーとして24年3月に設立された。RWA(現実資産)のトークン化を通じて資産の流動性と取引の透明性の向上を目指す。
KEYWORD
ブロックチェーン
情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続し、暗号技術を用いて取引記録を分散的に処理・記録する仕組みのこと。データの改ざんが極めて困難であることが特徴。仮想通貨やNFTに使用されている。
NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)
固有の値や属性をもたせることに よって唯一性があり、改ざんが難しいデジタル資産のこと。データをブロックチェーン上に記録することで、デジタルデータに固有の価値を付与することができる。
RWA(Real World Asset)
「現実世界の資産」を意味する用語で、不動産や株式、債権、金などの資産のほか、美術品なども含まれる。RWAの権利をトークン化したものをRWAトークンと呼ぶ。暗号資産のようなかたちで発行されているものもあれば、NFTとして発行されているものもある。