石破茂首相が債券市場の目を盗んでまた追加の景気刺激策をしようとしても、今度はそう簡単にいかないかもしれない。米国の信用格付けを最上位から引き下げたばかりのムーディーズ・レーティングスが、次に日本に厳しい目を向ける可能性もある。
さらに、7月20日にも実施される参院選も迫っている。石破の支持率が30%台前半に低迷するなか、世界経済の混乱や国内のスタグフレーションに関連した報道は、石破と与党・自由民主党にとって厳しい逆風となっている。
石破は、貿易協定をまとめるのに躍起になっているホワイトハウスの圧力にもさらされており、それに抵抗している。トランプは、米国側が貿易黒字という関係にある英国との「ディール」を世界から冷ややかな目で見られてこの方、自身の「ディール術」はまだ有効なのだと示したがっている。そのトランプがかねて、容易にねじ伏せられる相手と見てきたのが日本だ。
とはいえ、自民党政権はつい6年前、トランプ1.0と渡り合ってカブキめいた交渉劇を演じ、2国間貿易協定を結んだばかりだ。トランプ2.0との今回の交渉では、できるだけ長引かせて相手をじらし、さらに少ない譲歩で乗り切ろうという算段だろう。
この戦術はうまくいくかもしれない。しかし、トランプはいまだに貿易戦争への衝動を捨てきれていない。ホワイトハウスが中国人学生のビザ(査証)を「積極的」に取り消したり、中国が目立った譲歩案を示していなかったりするような現状では。
米国の国際貿易裁判所は5月28日、トランプに世界各国に関税をかける権限はないとの判断を示した。トランプはすでに控訴している。また、トランプ政権はこれまで、一部の裁判所命令に従わない意向もたびたび示唆してきた。
同じ週、トランプは記者からウォール街の「TACOトレード」についてどう思うかと尋ねられた。TACOというのは「Trump always chickens out(トランプはいつもビビって引き下がる)」を略した造語だ。こうしたもろもろを踏まえると、トランプにさらに大規模な関税を踏みとどまらせるものは何だろうかと疑問がわく。裁判所? そうかもしれない。だが、どうなるかは誰にもわからない(編集注:実際、トランプは5月30日、鉄鋼・アルミニウムに対する関税を25%から50%に引き上げると突如宣言した)。


