景気後退と物価上昇が同時に進む「スタグフレーション」が米国に近づいていると警告しているジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、すでに日本で起こっていることに目を向けてみるといいかもしれない。
米国でインフレの懸念がやや和らぐ一方、日本の4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.6%上昇し、日本銀行の目標である2%を大きく上回っている。また、日本の国内総生産(GDP)は1〜3月期に年率換算で0.7%縮小した。
しかもこの縮小は、ドナルド・トランプ米大統領による苛烈な関税の多くが発動する前に起こったものである。アジア2位の経済大国は、4〜6月期にさらに深いマイナス成長に沈む可能性もあるということだ。
ここで本当に悪いニュースは、こうした状況に日本政府がどんな手が打てるのか、はっきりしないという点だ。
日銀は、2年にわたり金融政策環境の正常化を進めている最中にある。植田和男総裁のチームは、1999年以降ゼロ近辺だった政策金利を可能な限り引き上げようとしており、今年1月には17年ぶりの高さとなる0.5%まで引き上げている。
市場は次の利上げがいつになるかに注目している。7月? 2026年? 日銀は前回、デフレ時代の政策枠組みから脱却を図った2008年には、再びゼロ金利に後退することを余儀なくされた。しかし今回は、ゼロ金利に舞い戻るという観測はあまり聞かれない。
債券市場の最近の動向からすると、金融政策の引き締め以上に大きなリスクを伴うのは財政政策の緩和かもしれない。日本の財務省が5月20日に行った20年物国債の入札は、需要が2012年以降で最低という結果になった。ある指標では、1987年以降で最も不調な入札だった。
喫緊の問題はトランプである。トランプの関税攻勢が引き起こしたカオスはすぐさま日本にも波及し、利回りを押し上げた。混乱が広がるなか、「債券自警団」は、先進国のなかでもとくに大きな政府債務を抱える国々に目をつけたのだった。日本の債務残高は国内総生産(GDP)比でみれば260%と世界最悪なのだ。



