小児てんかん治療に残る課題
早産児では急速な成長が薬剤代謝を大きく変動させるため、最適な投与間隔を見極めるのが難しい。投与間隔が短すぎれば乳児の体に負担がかかり、長すぎれば発作が再発して発達を阻害する恐れがある。今回挙げた症例の初期試験では、月1回の点滴投与が治療濃度を維持しうることが示唆されている。
安全性も最重要課題である。初期試験で臓器毒性や免疫反応は報告されなかったが、発達中の脳に対する慢性的治療の長期的影響は依然として不明だ。長期曝露が認知発達の鍵となるプロセスを乱す可能性も考えられる。それでも、本治療が示す可能性は極めて大きい。
大局的な視点
『ネイチャー・メディシン』の症例は単なる一例の成功ではなく、パラダイムシフトを示している。新生児スクリーニングと迅速なDNA解析が常態化することで、遺伝性疾患を最も早期に捉え、治療できる時代が実現しつつある。今日、私たちは生後数日から数週間のうちに介入できる。近い将来には出生前に介入することになるだろう。
こうしたブレークスルーはもはや夢物語ではない。科学と医学研究は依然として最先端を切り拓いている。胎児手術はすでに子宮内で構造的欠損を修復してきた。次なる飛躍は、分子レベルで出生前に遺伝性疾患を治療することである。本シリーズの次回では、脊髄性筋萎縮症を出生前に遺伝子治療で治療した最初の成功例を紹介する。こうした子どもたちとその家族にとって、その影響は大きい。早期介入は不可逆的な損傷を防ぎ、正常な子ども時代と劇的に改善された生活の質の可能性を提供することができる。
今後の展望
コストの低下と技術の向上により、近い将来すべての新生児が DNA 解析を受け、最適のタイミングで標的治療を受けられる時代が到来するだろう。長期的には、このアプローチが治療アクセスを拡大し、遺伝性疾患の負担を軽減し、人類の医療を再構築すると期待される。
なお、根本的な問いが残る。子どもの遺伝子変異を修正した場合、その変化は次世代に受け継がれるのか。現時点では大半の治療が体細胞を対象としており、生殖細胞には及ばない。しかし技術が進歩すれば、遺伝的治癒が遺伝する可能性が現実味を帯び、希望とともに新たな倫理的課題を提起する。
精密神経医学の最前線に立つ本症例は、未来への道筋を照らす。希少な遺伝性てんかんと向き合う家族にとって、この治療は発作の抑制以上の意味を持つ。かつて到達不可能とされた認知・発達の向上への生命線を提供する。より大規模な治験が必要とはいえ、小児脳疾患に対する「疾患修飾治療」(病気の進行を根本的に変える治療)の時代はすでに始まっている。第2回では、出生前に遺伝子エラーを修正することで遺伝性疾患の軌跡をいかに書き換え得るかを詳述する。


