AIがもたらす採用と組織構造への衝撃
再考すべきなのは国だけではありません。企業も同様です。従業員を増やすことで企業規模を拡大するという従来の方法は、AI時代においては時代遅れになりつつあります。AIを活用した自動化は、より少ない人員でも高い収益を生み出すことを可能にし、企業は組織体制を根本から見直さざるを得なくなってきているのです。
AIによる人員削減が進む企業
すでに多くの企業が対応を始めています。2023年、IBMはAIで自動化可能な業務に対する採用停止を発表し、バックオフィス部門を中心に推定700〜800人の雇用が影響を受けると見込まれました。同社CEOのアーヴィンド・クリシュナ氏は、人事や経理などの管理業務がますますAIに置き換わると述べています。さらに2025年1月には、人事ソフトウェアを提供するWorkdayが約1750名、つまり全従業員の約8.5%に相当するレイオフを発表しました。CEOのカール・エッシェンバック氏によれば、これらのリストラはAIへの成長投資に集中するために必要だったとしています。大企業における同様の事例は、Google検索やChatGPTで調べればいくらでも見つかるでしょう。
特にスタートアップでは、より小規模・高効率な経営が一層進んでいます。たとえばコーディングソフトウェア「Cursor」を開発するAnysphereは、わずか20名の社員で2年足らずの間にARR 1億ドルを達成しました。また、AI音声スタートアップのElevenLabsも、約50名の社員で同等の成果を上げています。OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は、いずれ1人だけで運営される企業が10億ドル規模に成長する可能性すらあると予測しています。
スタートアップの定石が崩壊する時
採用計画だけではなく、AIはスタートアップのオペレーションそのものを塗り替えています。特にSaaS企業はこれまで、「営業担当がX人いればYの収益が得られる、顧客数に応じてZ人のカスタマーサクセスを配置する、ユーザー数の拡大に合わせてサポートスタッフも増やす」━━といった標準化された定石に依存してきました。しかしAIの進化により、これらの前提は根本から崩れつつあります。