「憚られる」の意味とは?
遠慮や気兼ねから動けないニュアンス
「憚られる(はばかられる)」は、「言動を起こそうとする際に、相手への配慮や周囲の目を気にしてためらう」気持ちを表す言葉です。辞書的には「差しさわりや影響を恐れて、はっきり言えない・行動しにくい」という意味があり、遠慮と警戒が入り混じった状態を指し示します。
たとえば、会議で自分の提案を強く主張したいものの、上司の意見を否定するかもしれない─そんな遠慮や配慮が働き、発言を控えてしまう。このようなシチュエーションで「あえて意見を述べるのが憚られる」と表現するわけです。
読み方と語源の背景
「憚られる」は「はばかられる」と読み、「憚る(はばかる)」の受身形が成り立ちです。
「憚る」は「他人の評価や害を恐れて行動を慎む」という意味で、そこに受身の「られる」が付くことでさらに強い遠慮の気持ちや受動的ニュアンスが生まれます。古くは「恐れ多い」「慎むべき」といった畏怖の色合いも含まれ、現在でも表面的に「ためらう」と言うより慎重さや畏怖感が強調される点が特徴です。
「憚る」と「憚られる」の違い
自発的か受動的か
「憚る」は、“自らの意志で気後れする”動作を示す動詞です。一方「憚られる」は、“周囲の影響もあって、その行動を取りにくい状況”と、自分の主体性とは別にためらいが生じている感覚を表します。したがってビジネス文書などで丁寧に言葉を選ぶときは、「憚る」よりも「憚られる」の方が柔らかい印象を与えます。
実際に目上の人へのメールなどでも、「そのような言い方は憚られますが」というクッションフレーズが用いられる場合があります。これは主体的に「私はこう言うのをためらっている」と直接書くより、周囲の雰囲気を配慮した上で控えめに伝える効果を持ちます。
ビジネスシーンでの使い方
慎重な提案時に
上長や取引先に意見を具申する際、いきなり強い言葉で主張すると相手を刺激するかもしれません。そこで「非常に恐縮ですが、こう申し上げるのは憚られるのですが……」と切り出すことで、衝突を避けながら意見を提案できます。
断りづらい場面に
依頼や誘いを断ると角が立つ恐れがある場面でも、「そちらのご要望を拒否するのは憚られますが、現状では対応が難しい状況です」のように使えば、配慮を示しつつ断ることが可能です。このように「相手の気持ちに配慮して言いにくい」という含みを伝えることで、コミュニケーションの衝突を最小限に抑えられます。
クッション言葉として
「申し上げるのは憚られますが」「言いにくいのですが」など、クッション言葉として「憚られる」を挿入すれば、相手への尊重や配慮を感じさせるフレーズになります。ビジネスでは特に上席者やクライアントへのネガティブな報告に活用し、柔らかな印象を与えるのが得策です。
正しい敬語表現
使い方の注意点
「憚られる」に謙譲語や尊敬語はなく、自発的に“こちら側がためらう”行為を示す言葉であるため、周囲や相手への敬意を示す際はクッションフレーズや丁寧語を組み合わせると好印象です。
●「恐縮ですが、○○と申し上げるのは憚られます」
●「大変言い出しにくく、憚られるのですが、実情をお伝えいたします」
このように「恐縮ですが」「大変恐縮ですが」などで文頭を和らげつつ、「憚られる」で主張をオブラートに包む形です。実際に業務の現場でも、調整が難しい内容を発信するときはこうした婉曲表現が多用されます。
誤用に気を付けるポイント
「恐れ多い」「差し障りがある」という意味を忘れ、単に「言いにくい」と混同すると、本来の尊敬や遠慮をこめるニュアンスを失ってしまいます。特にフランクな友人同士なら「言いにくいけど」「ためらう」という直接表現の方が自然です。
ビジネスライティングや公的文章で使う場合は、かしこまった場面限定と考えるくらいでちょうど良いでしょう。
類義語・言い換え表現
「気が引ける」
「憚られる」よりカジュアルで、自己の内面に生じるためらいを素直に言語化した言い回しです。「この報告をするのは気が引ける」というように、相手目線の配慮よりも自分の心理状態を強調したい場合に適しています。
「遠慮される」
第三者が対象の行為を控える様子を表す言い回しで、「周りに配慮して自粛する」というニュアンスが強い表現です。自分が控える場合でも言えますが、やや客観的な印象を与えます。
「ためらわれる」
「ためらう」の丁寧形に近い言い回しです。「取り急ぎお伝えするのがためらわれる」など、日常会話よりも格式高い文章で活用可能。しかし「憚られる」の持つ相手側への配慮や公的な響きとは少し異なり、自分の意志を強調する面が大きいでしょう。
英語表現
英語に直訳は難しいですが、hesitate to 〜 が最も近いニュアンスです。「I hesitate to say this, but …(申し上げるのは憚られますが…)」のように、ビジネスメールでもたびたび使われます。
例文で理解を深める
社内メール
「新プロジェクトの予算増について、経営陣に直接掛け合うのは憚られるのですが、現在の資金では目標を達成できません。」
取引先への連絡
「大変恐縮ですが、この度の交渉条件を受け入れるのは私どもにとって憚られる事項があり、慎重に検討せざるを得ません。」
上司への相談
「お忙しいところ憚られるのですが、先日の報告書の内容について再度ご確認いただけますでしょうか。」
まとめ
「憚られる」は、“言いたい・行いたいことを周囲の反応や相手への配慮からためらう”状態を指す言葉です。
- 主観的なためらい+相手への遠慮を含む
- 尊敬や丁寧表現のクッションフレーズと組み合わせて使用
- 「遠慮される」「気が引ける」「ためらわれる」などの類義語も状況で使い分け
ビジネスでは、慎重な姿勢を示しつつ、角を立てずに物事を伝えたいときに重宝する表現といえます。誤用を避けて上手に活用すれば、人間関係を円滑にするクッション言葉として大いに役立つでしょう。目的や相手との距離感を踏まえ、洗練されたコミュニケーションに活かしてみてください。



