コーチの予言どおり、長い道のりだった。ウッズの勝利は止まった。実際、18か月間、1勝もできなかった。彼はもはや再起不能だと言う評論家も現れはじめた。それでもウッズとコーチは、もう少し時間が経てば小さいながらも効果が現れると信じていた。「勝利はかならずしも上達のバロメーターではない」と、ウッズは言い切った。
彼のカイゼンの姿勢は功を奏した。新たなスイングは、かつてないほど正確、精密、変幻自在で、最強の武器へと進化した。1999年の後半から驚異の6連勝を達成したタイガー・ウッズは、それ以降、PGAツアーで82勝という前人未到の記録を打ち立て、紛れもなく史上最高のゴルファーとなった。
成功には何度も微調整が必要だ
完璧の追求は英雄的行為ではなく自己鍛錬だとウッズは証明している。
チャールズ・ダーウィンの進化論と「適者生存」の考え方によると、小さな適応は怠ると絶滅につながる一方で、小さな突然変異は生存するうえで有利だとされる。この考え方は、カイゼンの哲学にも共通する。
ダーウィンに言わせれば、個人の成功(=生存)はたった1つの天才的なひらめきによって決まるものではない。むしろ、長い目で見た生物のあらゆる面での段階的な進化、突然変異、適応を促す考え方から生まれるものだ。
航空業界には「60分の1の法則」というのがある。進む方向が1°外れると、60マイル飛ぶごとに1マイルのずれが生じ、目的地に到達できなくなる。これは私たちの人生、キャリア、人間関係、そして自己成長にも当てはまる。最適なルートからのほんのわずかな逸脱は、時間や距離が長くなるにつれて大きくなる。いまは小さなミスに思えても、将来的に大きなミスにつながるかもしれないのだ。
そこで、カイゼン=リアルタイムのコース修正や調整が不可欠となる。成功を目指すには、人生のあらゆる局面で何度となく自身の進路を確かめ、必要に応じて微調整を行わなければならない。
人間関係の研究で知られる心理学者ジョン・ゴットマンは、数十年にわたる研究から、「軽蔑」が離婚の最大の予測因子だと結論づけた。軽蔑は、パートナーからの軽視や無視にも等しい。コースから1°それた飛行機と同じく、コミュニケーション不足のせいで争いを解決できない夫婦は、時間の経過とともに少しずつ亀裂が深まる。


