サイエンス

2025.06.16 16:30

「ウサギとノウサギ」「バイソンとバッファロー」混同されやすい動物たちとその違い

ノウサギ(Geza Farkas / Shutterstock.com)

ノウサギ(Geza Farkas / Shutterstock.com)

生物の系統樹の解明は、この半世紀で大きく前進してきた。シャチを例にとってみよう。シャチは長い間、複数の亜種から成る1つの広範な種として分類されてきた。しかし最新の研究は、これらの亜種の一部が、別の哺乳類種として再分類すべきほど大きく異なることを示唆している。

20~30年前と比べて系統樹がはるかに詳しく解明されている主な理由の一つは、遺伝子検査の進歩だ。ゲノム配列決定技術の進歩により、系統間の分岐の程度や関係をすばやく特定できるようになり、正確な分類が可能になった。

これらの区別は、時には細かすぎて不必要に感じられるかもしれないが、実際にはとても重要だ。その理由の一つは、進化の過程をより正確に研究できるためだ。

遺伝的分化の時系列に関する正確なデータがあれば、科学者は、「ある種が別の種に進化するにはどれくらい時間がかかるのか?」「進化のプロセスを加速または遅延させる環境要因は何か?」といった疑問に答えられる。こうした知識は、動物の種分化や絶滅についての理解を深める助けになる。

ここでは、専門家でない人が混同しやすい4組の近縁動物と、それらがそれぞれ独自の名前を持つべき生物学的理由を紹介する。系統樹における動物の位置付けが見直されることもあって、一般名は必ずしもそれを反映しているわけではないことを覚えておいてほしい。

ノウサギ(hare)とアナウサギ(rabbit)

ノウサギとアナウサギは、どちらもウサギ科に属するが、外見的特徴や行動に明確な違いがある。この科のほとんどの種は伝統的にウサギと呼ばれているが、ノウサギという名称は通常、ノウサギ属(Lepus)にのみ使われる。

しかし、これらの一般名は誤解を招く可能性がある。なぜなら、例外が存在するためだ。例えば、米国のジャックウサギ(jackrabbit)は、一般名にrabbitが付くが実際にはノウサギ属だ。アジアのアラゲウサギ(hispid hare、学名:Caprolagus hispidus)は、一般名にhareが付くが、実際にはノウサギではない(アラゲウサギ属)。

ノウサギとアナウサギはどちらも、捕食者から逃れるための強力な後脚と長い耳で知られる。しかし、ノウサギは一般的にアナウサギよりも体が大きく、脚と耳がより長い。また、ノウサギは早成性(生まれてすぐ自立して生活できる)で、全身が毛に覆われ、目を開いた状態で生まれる。一方、アナウサギは晩成性であり、毛がなく目を閉じた状態で生まれ、生後間もない時期は、親の世話をより必要とする。

ノウサギ属のヨーロッパノウサギ(Shutterstock.com)
ノウサギ属のヨーロッパノウサギ(Shutterstock.com)

ノウサギは、開けた野原や草原に生息し、単独で生活する傾向があるのに対し、アナウサギはより社会性が高く、多くの場合、捕食者から身を守るために巣穴で生活する。生息地や生活戦略の違いが、それぞれ別の名前を持つ主な理由であり、これらの適応は、異なる進化の道筋と生存メカニズムを反映している(アナウサギを家畜にしたものが飼いウサギ)。

ノウサギは、スピードと敏捷性が持ち味で、力強いジャンプによってほとんどの捕食者から逃げ切ることができる。ノウサギは単独で生活し、開けた場所を好むが、こうした傾向は、アナウサギの社会構造や、穴を掘る行動とは対照的だ。

アナウサギ(Shutterstock.com)
アナウサギ(Shutterstock.com)

進化の過程で、ノウサギとアナウサギは異なる生態的地位を占めるように分岐し、その結果、異なる身体的特徴や行動が発達したのだ。

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翻訳=米井香織/ガリレオ

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