マーケティング

2025.06.12 10:15

来店前に勝負あり。クチコミ時代に飲食店が味以外で戦う秘訣

Getty Images

また判断材料の増加によって、選ぶ側に「選んだ理由」が求められるようになった。

advertisement

友人を誘っての食事会で「店の外観が良い感じだったから」なんて理由だけで店を選んだら「えっ、それだけで選ぶの?」と驚かれるだろう。飲食店を選ぶ基準について、現代では「少し調べればわかること」が多いので、幹事は「なぜこのお店にしたのか」を無意識に説明せざるを得なくなった。

ネット上の点数が低い店を選ぼうものなら「なぜこの点数の店を、わざわざ選んだのか」の説明責任を負う。どんなに直感的に惹かれた店でも、口コミの点数が低いと友人たちを誘いづらい。

こうして飲食店選びに限らず、あらゆる事象の判断基準が自分の基準ではなく、他人や世間の基準へシフトしていった。これは判断材料インフレーション社会の重大な副作用だ。

advertisement

飲食店に限らず、一昔前までは消費行動の大半が「ガチャ」だった。

つまり、実際に体験するまで、購入するまで、その感想はわからないものだった。それが今や、自分で体験・購入する前に世間の評判が高い解像度でわかる。まず、自分の感想があって、その集積として世間の評判になるのではなく、自分の行動自体が世間の評判に大きく影響される、あるいは支配されつつある。

来店前に勝負はついている

判断材料のインフレによって「選ぶハードル」も上がったが、同時に「選ばれるハードル」も上がった。

飲食店にとって最大の変化は、「食べる前に評価されるようになった」という点だろう。

「料理がおいしい」は、飲食店が選ばれる重要な理由の一つだ。しかしおいしさ(自分の好みに合う味か)は、一度体験してもらわないと伝わらない。それにもかかわらず、現代では入店前に判断がなされてしまう。「たまたま入ったお店がおいしかった」という消費行動は、もう起こりにくくなってしまった。

情報が多すぎる時代に生活者は、こんな行動をとる。

①新店舗を見つける
②地図アプリやグルメサイトでレビューをチェックする
③Instagramで料理の写真を見る
④「いつか行こう」と先送りする
⑤結局、いつもの店に行く

どれほど素晴らしいメニューがあっても、情報処理の負荷が高すぎると、人は新しい選択を避ける。そして最も労力の少ない「いつもの選択」に落ち着く。

つまり、飲食店は味以外に「入店前に選ばれる理由」を作る必要に迫られている。

既に評判が蓄積して、味を体験する前から選ぶ理由がある老舗はまだ良い。問題は新規の飲食店だ。まだ評判が少ない段階で「どういう理由で選んでもらうのか?」その競争が今、激化しているのだ。

いつの間にか私たちは、味わう前に判断し、体験する前に評価する世界に生きている。

注:記事中リンクから商品の購入などを行なうと、編集部に収益が入ることがあります。また事業者は、商品の選定や記事内容には一切関与していません。

文=小島雄一郎

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事