教育プログラムの成果を測るために最も当てにできる指標は、修了後の収入増加だ。つまり、その資格を取得した修了生は、標準的な高卒者と比べてどのくらい多く稼げるようになるかだ。大学進学を専門とするコンサルティング会社、HEAグループの創業者であるマイケル・イツコウィッツ社長は、この指標で見ると、営利系の学校は総じて失敗していると説明する。連邦政府の教育データを用いた彼の調査によれば、修了証(サーティフィケイト)を授与する教育機関のうち59%は、修了生の年収が入学から10年後たっても、米国の標準的な高卒者の年収である3万2000ドル(約460万円)に届いていない。「こうした学校にやみくもに資金を投じるのは非常に分の悪い賭けで、税金の使い方として効果的でも効率的でもありません」とイツコウィッツは断じる。彼は教育省に在籍していた2015年、連邦政府が持つ教育データの過去最大規模の公開プロジェクト「カレッジ・スコアカード(College Scorecard)」を立ち上げた人物でもある。
サードウェイのディミノは、新たな資金は新たなプログラムを生み出す公算が大きいと予想する。「(短期間で取得できる資格の)提供者には、資金の一部を獲得するためにその分野に参入しようという強い誘因が働くことになります」と彼女は話す。「その結果、無名の民間ブートキャンプ(短期集中型の職業訓練プログラム)会社が、認定プロセスを経ずにごく短期間の資格プログラムを次々と立ち上げ、ペル資金を活用するという事態が起こり得ます」。認定は長年、大学などの教育の質を第三者が確認する手段として用いられてきたもので、現在、準学士号、学士号、大学院学位を授与する大学や、修了証を授与する職業学校は、在校生が連邦政府から財政支援を受けるためには認定を取得している必要がある。ワークフォース・ペル・グラントでは、この認定要件を回避できることになる。
たしかに、米国では短期での資格取得の選択肢がもっと必要だとされており、それに異を唱える教育専門家はほとんどいない。しかし、これまでそのニーズを主に担ってきた営利大学の多くは、学生に満足のいく投資リターンを提供できず、逆に重い借金を背負わせてきた。米連邦準備制度理事会(FRB)がこのほど発表した2024年版「米国世帯の経済的健全性」調査によると、学士号や大学院学位の取得者と、大学中退者や2年未満で取得できる資格の取得者を比べた場合、前者のほうが学費を教育ローンで賄う比率が高い。しかし債務返済の滞納率は、前者が11%で後者が30%と低学歴者のほうが高い。「営利大学が利用できる連邦資金を拡充するたびに、不正行為が起こってきました」とディミノは語る。「こうした傾向を無視することは難しいのに、また彼らにそうする自由を与えようとしているのです」


