サンフランシスコに拠点を置く米国最大のデジタルバンクのChime(チャイム)は、1株あたり24ドル(約3408円。1ドル=142円換算)から26ドル(約3692円)という株価で新規株式公開(IPO)を目指している。同社が6月2日に公開したプレスリリースや米証券取引委員会(SEC)への提出書類によれば、この価格は、ストックオプション(新株予約権)の行使などを考慮した完全希薄化ベースの時価総額が約110億ドル(約1兆5620億円)になることを意味している。この時価総額は、フィンテック業界がバブルの頂点にあった2021年8月の資金調達時にチャイムが記録した評価額の250億ドル(約3兆5500億円)を大きく下回るものだ。
同社の完全希薄化後の評価額の110億ドル(約1兆5620億円)には、従業員への株式報酬やチャリティプログラム「Chime Scholars」のために確保された5900万株が含まれている。これらの株式を除外した場合のIPO時のバリュエーションは95億ドル(約1兆3490億円)となり、フォーブスが約1年前に試算した額の80億ドル(約1兆1360億円)をやや上回る水準となる。
2012年設立のチャイムは、トランプ政権の関税によって株式市場に警戒感が広がる中で、IPOに踏み切ろうとしている。同社は、月額手数料無料の当座預金口座とデビットカードで人気を博し、約860万人のアクティブ顧客を抱えている。また、給与や税還付金の振込先として同社アカウントを設定した顧客向けに、最大500ドル(約7万1000円)の給料の前借り機能や、信用スコア向上を支援する「セキュアドクレジットカード」といった特典を提供している。
同社は、収益の大半をデビットカードやクレジットカードの決済時に加盟店が支払う1~2%のインターチェンジ手数料から得ており、小口融資にも積極的に進出している。チャイムは、銀行免許を持たないため、バンコープやストライドといった銀行との提携でバンキングサービスを提供している。
創業者兼CEO、共同創業者の持ち分は約710億円相当に
チャイム共同創業者兼CEOのクリス・ブリットは同社株式の5%を保有しており、共同創業者ライアン・キングは4%を保有している。SECへの提出書類によると、ふたりの持ち分はIPO時にそれぞれ約5億ドル(約710億円)相当になる見込みという。またふたりは、現時点でチャイムの議決権の65%を支配しており、パフォーマンス目標を達成すれば75%を掌握する可能性がある。彼らはこの支配力を用いて、「株主の承認を必要とするあらゆる行動を大きく左右する、もしくは決定することが可能だ」と書類に記されている。
同社の最大株主は、完全希薄化ベースで約12%の株式を保有するベンチャーキャピタルのDSTグローバルとされている。このほか、クロスリンク・キャピタルや、ウクライナ出身のビリオネア、レン・ブラヴァトニクが所有するアクセス・インダストリーズ・マネジメントも、チャイムに大きな持ち分を保有している。
チャイムのデビットカードが最初に一般に紹介されたのは、タレント医師フィル・マグローが司会を務める2014年のトーク番組『ドクター・フィル』でのことだった。マグローの息子でテレビプロデューサーのジェイ・マグローは現在、550万株を保有しており、IPO時には約1億4000万ドル(約198億8000万円)の価値になる見込みとされる。SECへの提出書類によると、マグローはチャイム上場時に一部株式を売却する予定で、フローリッシュ・ベンチャーズ、キャセイ・イノベーション、ノースウェスタン・ミューチュアルなどの他の投資家も同様に株式を売却する計画という。