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2025.06.03 14:05

長嶋茂雄「不滅」のリーダーシップ、なぜ人々はミスターに熱狂したか

Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images

ON砲と9連覇、そして「わが巨人軍は永久に不滅です」伝説へ

長嶋さんのキャリアを語る上で欠かせないのが、王貞治さんとの「ON砲」。タイプは異なれど、共に球界を代表するスラッガーであった二人の存在は、巨人を常勝軍団へと押し上げ、プロ野球人気を絶対的なものへと高めた。長嶋さんの華やかで天性の勝負強さと、王さんの求道的で圧倒的な本塁打記録。この二枚看板は、相手チームにとって最大の脅威であると同時に、ファンにとっては最高のエンターテインメントだった。

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「ON砲」を中軸に据えた巨人は、1965年から73年にかけ前人未到の9年連続日本一という偉業、いわゆる「V9」を達成。この黄金時代の中心こそ、長嶋さんだった。記録にも記憶にも残るスーパープレーの数々、「ここぞ」という場面での一打、そして何よりもファンを魅了し続けるその天性の明るさとスター性は、チームを勝利に導くだけでなく、日本中の人々を勇気づけた。

三振しても絵になる、エラーしても憎めない…そんな選手は、なかなか現れないだろう。その姿は「失われた30年」と揶揄される現在の日本からは想像もできない、当時の日本高度経済成長期の高揚感とシンクロし、多くの国民にとって、長嶋さんと巨人の勝利は、自らの成功や希望を投影する対象となった。巨人は日本球史最多となる22度の日本一に輝いているがV9以前はわずか6度、V9達成の1974年以降は、51年の時を数えたが巨人の日本一は7度に過ぎず、9連覇の偉業が際立つ。昭和中期の人気者として「巨人、大鵬、玉子焼き」と称されたわけだが、これを「長嶋、大鵬、玉子焼き」と並べ替えても異論を唱える者はなかっただろう。
※「大鵬」は1960年代から70年にかけ活躍した昭和の大横綱。幕内優勝32回は、白鵬に抜かれるまで歴代1位に君臨。王鵬は孫にあたる。

1974年10月14日、後楽園球場で行われた引退セレモニー。ファンへ向け発した「わが巨人軍は永久に不滅です」という言葉は、日本球史、いや日本のスポーツ史において最も有名なスピーチの一つとして、永遠に語り継がれることだろう。首位打者6回、本塁打王2回、打点王5回、MVP5回。その記録もさることながら「長嶋茂雄」という存在が、プロ野球の象徴だった。背番号「3」は永久欠番となり、17年間にわたる輝かしい現役生活を終えた。セレモニー当日は平日だったが、会社を休んだ父と共に、茶の間で一緒にこの「永久に不滅」を見守ったものだ。

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文=松永裕司

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