SNSは外交手段ではない
SNSを使って政策を推し進める政治家はトランプ大統領だけではないが、これは外交上の効果的な手段とはいえない。思い付きの発言が状況を改善することはほとんどなく、むしろ事態を悪化させる可能性は確実にある。だからこそ、SNSの力を過小評価すべきではない。特に、今回のような分断を促すようなメッセージが中心にある場合はなおさらだ。
カーシュナー博士は次のように説明した。「SNSは、政治的な問題に対する利用者の反応を両極化させる傾向があることは、以前から研究によって示されている。利用者はコンテンツを気に入るか、気に入らないかのいずれかだ。いずれの場合も外交上問題があるかどうかに関係なく、二極化した利用者がメッセージを拡散することによって、さらに多くの利用者の目に触れることになる」
ウィンストン・チャーチルよりチャーリー・シーンが外交の場に?
ホワイトハウス内には、トランプ大統領の強い言葉がロシアの共感を呼ぶだろうという確信があるのかもしれない。だが、同大統領がSNSを使って主張を展開しているにもかかわらず、デンマークがグリーンランドの領有権を米国に売却したり譲渡したりする意向はないこと、またカナダは米国の51番目の州になることに関心がないことはすでに明白だ。同様に、トランプ大統領の口頭による一撃がロシアの戦争目的を変えたり、同国政府を混乱させたりはしないだろう。
先述のツカーマン社長は次のように述べた。「プーチン大統領は西側諸国から侮辱されたことで戦略を練り直すようなことはしない。むしろ、西側諸国を食い物にしている。クレムリンにとって、トランプ大統領の発言は西側諸国の退廃と不安定さを物語っている。米国のいわゆる『屈強な男』でさえ、感情を制御できないことの証になっているからだ。ロシアは孤立し、過度に緊張しているかもしれないが、同国の情報操作は依然として痛い所を突いており、トランプ大統領の暴言はプロパガンダ攻撃の格好の標的となっている」
さらに悪いことに、ロシアがこの侮辱を無視すれば、トランプ大統領の信頼性が損なわれる可能性もある。「すでに法的な問題や党内の分裂、そして世界情勢の悪化で傷ついたトランプ大統領のイメージは、外交政策に見せかけた校庭のからかいによってさらに低下している。指導者としての統率力とは敵を好きになることではなく、管理することだ。世界中が見守る中、核武装した対抗相手を『狂っている』と呼ぶのは、英国のウィンストン・チャーチル元首相というより、米俳優のチャーリー・シーンに近い」(訳注:チャーリー・シーンは、かつてテレビドラマを降板した際に、感情的なコメントをSNSに繰り返し投稿し、米国で話題となった)。
結局のところ、トランプ大統領がプーチン大統領を「狂っている」と呼んだところで、第三次世界大戦は始まらないとしても、現在のウクライナ侵攻を終結させることはできないだろう。「これは、ハイレベルの外交がSNS上のコンテンツに成り下がるという、何か腐敗したものを示唆している」とツカーマン社長は警告する。「戦略的な情報伝達が失われ、代わりにドーパミンが刺激されるようになった。そして、かつては政治劇と実際の戦争を隔てていたガードレールがゆっくりと、しかし着実に崩壊しつつある」


