SNS投稿でロシアを和平交渉のテーブルに着かせることはできない
トランプ大統領がSNS上でロシアに関する不満を爆発させれば、自身の支持者からは共感を呼ぶかもしれない。だが、プーチン大統領のウクライナに対する空爆作戦を止めることはできず、ロシアを交渉のテーブルに着かせることもできないだろう。
地政学的脅威の評価を手がける米スカラベ・ライジングのイリナ・ツカーマン社長は、次のように述べた。「トランプ大統領がトゥルースソーシャルで最近、プーチン大統領を『狂っている』と非難したことで、ロシア軍が撤退したり、クレムリン(ロシア大統領府)が戦略を変えたりすることはないだろう。他方で、SNSがミサイルよりも速く、より激しい打撃を与えることもある高度に結び付いた現代社会の中では、外交上の機微に火をつけ、大統領の威信を損ない、すでに希薄になっている見せかけの行動と挑発の間の境界線を曖昧にしかねない」
ツカーマン社長は、ロシア政府の予想通りの憤慨はこの話とは別だと指摘する。プーチン大統領はすでに西側の政治家や国内の野党勢力から死亡説や亡命説がささやかれるなど、ありとあらゆる侮辱を受けながらも生き延びてきた。「それより重要なのは、政治家としての資質が低下していることだ。特に米国では、元大統領から将来大統領になりえる人物まで、地政学をあたかも『リアル・ハウスワイフ(訳注:裕福な女性の実生活を追った米国のテレビ番組)』のように扱っているように見受けられる。つまり、開け広げで、即座に反応し、SNSへの投稿ひとつで炎上してしまっているからだ」
舌戦が実際の戦争に発展する可能性も
不動産開発業者からテレビ番組への出演で一躍有名になり、政治家へと転身したトランプ大統領は「戦争の芸術」についてはまったく無知でありながら、「交渉の芸術」に過度の重点を置いているように見受けられる。少なくとも、同大統領が歴史学者ではないことは確かだ。トランプ大統領は、スペイン王位継承問題を巡る議論がなされた電報が公開されたことで、1870年に普仏戦争が勃発した「エムス電報事件」を知らないだろう。
1956年11月には、ソビエト連邦の指導者ニキータ・フルシチョフが首都モスクワのポーランド大使館で西側諸国の大使に「好むと好まざるとにかかわらず、歴史は私たちの味方だ。あなた方を葬ってやる!」と発言したことで、当時の北大西洋条約機構(NATO)加盟12カ国とイスラエルの大使らはこれを脅威とみて部屋から退出した。それ以降、東西間の外交関係は急速に冷え込むこととなった。しかし、歴史家によると、西側の大使はフルシチョフが言おうとしていたことを誤解したようだ。フルシチョフは西側諸国を脅そうとしたのではなく、共産主義は資本主義より長く存続するだろうという皮肉を込めて、「私たちはあなた方の葬儀に参列するだろう」と言ったのだ。
トランプ大統領のSNS上での発言も同様の誤解をもたらす可能性がある。先述のカーシュナー博士は次のように指摘した。「トランプ大統領は、たとえロシアとの戦争を望んでいなかったとしても、潜在的には戦争に発展する恐れがある。この種の発言は意図に関係なく、そういった悲惨な結果をもたらしかねかい。トランプ大統領が行っているような攻撃は、たとえ米国とロシアの間で直接的に交わされたものでなくとも、国家間の紛争につながる可能性は十分にある。こうした姿勢によって、外国勢力が追随したり、同大統領が少しでも否定的な発言をすれば同盟国が脅かされたりする可能性も否定できない」


