食&酒

2025.06.11 15:15

NYセレブ・世界の富裕層注目の軽やかな贅沢。ニューヨークワインというネオリッチ

「ウォルファー・エステート」創業者クリスチャン・ウォルファーの長女は 高級ブティックを展開。NYセレブを顧客に持つ

「ウォルファーのロゼが…」NYでは売り切れると社会現象に

ワインを軽やかに、ライフスタイルの一部として楽しむ——この新潮流を体現する象徴的存在が、ロングアイランドのハンプトンズに拠点を構える「ウォルファー・エステート」だ。

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全米一の高級別荘地であるハンプトンズ。世界最大級のワイン消費地マンハッタンから車で約2時間という立地の良さが、生産者と消費者の距離を縮めている。

ニューヨーカーに絶大なる知名度と人気を集めるウォルファー・エステートは、NYビジネス界で成功した実業家クリスチャン・ウォルファーが1988年に設立。ドイツ人醸造家ローマン・ロスの確かな腕が生み出すフレンドリーなワインは、「Our Winery(私たちのワイナリー)」として、ハンプトンズの別荘族から愛されている。敷地内には米国北東部最大規模の乗馬クラブも併設し、富裕層の社交場としても機能している。

驚くべきは、年間生産量約100万本のうち、実に8割近くをロゼが占めること。特に爆発的ヒットを誇る同社の顔が「サマー・イン・ア・ボトル」だ。このロゼが売り切れると「ウォルファーのロゼがなくなった」とニューヨークでニュースになるほどの社会現象を巻き起こす。顧客は箱買いが当たり前で、ドライブスルー販売まで用意されるほど。夕陽と音楽を楽しめる夏の週末の夕方には、友人同士や家族が集うソーシャル・スポットとして賑わいを見せる。

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このヒットの背景には、2013年に長男マークと長女ジョーイが経営を引き継いだことによるブランド変革がある。ファッション業界出身のジョーイは、中古トラックを改装した移動式高級ブティック「スタイルライナー」を展開するなど、独自のセンスと自由奔放なボヘミアンな生き方でブランドの在り方に影響を与えた。ウォルファーはもはやワインに留まらない「ライフスタイルブランド」へと進化を遂げている。

夏の間はドライブスルー販売所も出現
夏の間はドライブスルー販売所も出現

「私たちは2人で1本を気づいたら飲み終わってしまうワインを目指している」。ウォルファーのみならずNY生産者がよく口にするこの言葉は、カリフォルニアワインとの明確な差別化を示している。果実味と酸味のバランスを重視したフードフレンドリーなスタイルは、会話と食事を楽しむシーンにぴたりと寄り添う。

夏を詰め込んだような華やかなロゼ
夏を詰め込んだような華やかなロゼ

「ニューヨーカーたちは、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンの違いもほとんど分かっていない。それでも『私はこれが好きだから』『いつも行くワイナリーだから』と自信を持って自由に楽しんでいる」。

そう語るのは、NYワイン専門インポーター「GO-TO WINE」代表の後藤芳輝・由華夫妻だ。二人が目にした印象的な光景が、2024年にブルックリンの公園を訪れた際のこと。20〜30代の若者たちがピクニックやスポーツを楽しむ傍ら、ゴミ置き場には、日本円で5000円程度するウォルファーのロゼの空き瓶が無数に転がっていたという。ランニング終わりの格好で日向ぼっこしながらワインを楽しむ彼らの姿は、アルコールを「悪」ではなく「楽しむもの」として捉える健全な文化を物語っていた。

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文=水上彩 編集=石井節子

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