尹は、「上から」だけでなく「下からも」経済の活力を生み出すと約束して当選した、2008年以降で4人目の大統領だった。それは、アジア4位の経済大国を牛耳る少数の財閥(チェボル)との対決を意味する。
サムスン、ヒュンダイ、LG、SKといった一族支配のコングロマリットは、過去30年に韓国を経済的な高みへ押し上げる原動力になった。だが現在、これらの大企業による寡占状態は、韓国で中小企業が成長し、繁栄し、創造的破壊を起こすのに必要な経済的な酸素を奪うかたちになっている。
長年、韓国の歴代政権が構造改革に手を付けてこなかったツケが、ここへきて回ってきている。問題は、韓国が生産しているものの多くが、商品としてコモディティー化していることだ。たとえば、自動車、電子製品、ロボット、船舶、エンタメなどだ。中国の習近平国家主席の巨大な産業政策「中国製造2025」が勢いづくなか、韓国は競争力を高めていくのに一刻の猶予もない。
尹とそれに先立つ3代の大統領は、韓国経済をより付加価値の高い分野にシフトさせる革新的な「ビッグバン」を公約に掲げていたが、残念ながら誰一人たいした成果を収められなかった。次期大統領は、もっと良い成果を、しかも迅速に生むことが求められる。そうしなければ、おそらく有権者は政府に背を向けるだろう。
韓国社会には、不安が広がっているというより、もっと根深い絶望が巣食っている。韓国の政治体制は控えめに言っても、ひどい混乱状態にある。近年、起訴された韓国大統領は尹だけではない。政治混乱や復讐劇が繰り返される一方、普通の韓国国民が直面している課題には政治家たちから十分な関心が払われていない。
時間は韓国に味方していない。さまざま課題を抱えながらも、中国はアジア経済の時計の針を速めており、その回転はますます速くなっている。中国が経済の高付加価値化を進めるにつれて、アジア最大の経済大国に遅れをとらないようにするのはさらに難しくなっていく。韓国のイノベーション促進や生活水準の向上が、政治の行き詰まりによって妨げられている場合はなおさらそうだ。
韓国でまもなく新政権が誕生し、それを前に国民の間で楽観的な雰囲気が醸成されているのは朗報だろう。一方で心配の種もある。新政権は早期に結果を示す必要があり、それができなければ、長年、置き去りにされてきたと感じている数千万人の国民の怒りを買うのは必至だということだ。


