妊娠中の妻と共に初の起業後、ASTスペースモバイルを連続起業
ASTスペースモバイル創業者のアベランは、この業界の内情を知り尽くしている。ベネズエラ生まれの彼は、エンジニアリングを学び、スウェーデンの通信大手エリクソンでキャリアをスタートさせた。そして、2000年にEmerging Markets Communications(エマージング・マーケッツ・コミュニケーションズ)と呼ばれる会社を、5万ドル(約720万円)の自己資金を元手に妊娠中の妻と共に創業し、アフリカや中東、そしてクルーズ船や貨物船向けに衛星通信サービスを提供した。彼はこの会社を2016年に衛星企業Global Eagle(グローバル・イーグル)に5億5000万ドル(約792億円)で売却し、その資金の一部を使って翌年2017年にASTスペースモバイルを創業した。
同社は、2019年に最初のデモ衛星を打ち上げた後にボーダフォンや楽天、AT&T、そしてロンドンを拠点とするShift Ventures(シフトベンチャーズ)などから1億1000万ドル(約158億円)を調達した。そして2021年に、プライベート・エクイティのNew Providence(ニュープロビンス)が支援するSPACとの合併を通じて上場し、さらに4億6200万ドル(約665億円)を集めた。
グーグルともパートナーシップ契約
ASTスペースモバイルの株価は、その後2倍以上に上昇し、約25%の株式を保有するアベランの保有資産は約21億ドル(約3024億円)に達している。2024年1月、ASTスペースモバイルは、グーグルおよびAT&Tと新たなパートナーシップを締結し、Androidに衛星接続を導入するための製品開発、テスト、実装計画で協力することを発表。2025年3月にASTスペースモバイルとボーダフォンは、衛星通信を欧州とアフリカのモバイル事業者に提供するための合弁会社を設立する計画を公表した。
こうした提携はまた、旧来の通信会社が保有している衛星とスマホとの通信を可能にする電波帯域の利用を可能にする。ここにはASTスペースモバイルの通信に4G並みの速度をもたらす重要な帯域の取引も含まれており、規制当局が承認すれば、世界中で通信サービスを提供できるようになる。一方、スペースXは現時点でテキスト通信しか提供できておらず、それが将来的に変わる可能性はあるとはいえ、「パートナーシップがはるかに少ないスターリンクは、資金は潤沢だが帯域には乏しい」とBライリー・セキュリティーズのクロフォードは指摘した。
「ミーム株」と揶揄するスペースX、熱狂的な個人投資家コミュニティ
スペースXがASTスペースモバイルを脅威と見なしているのは明らかだ。同社は、連邦通信委員会(FCC)の管轄下にある周波数の利用や宇宙ゴミ問題、天文観測の妨害などを巡って、すでにASTスペースモバイルと激しく対立している。
さらに、スペースXはFCCへの提出書類の中でASTスペースモバイルを「ミーム株」と揶揄していたが、その見方にも一理ある。ASTスペースモバイルは数十億ドル(約1.26兆円)の時価総額を裏付けるだけの実質的な収益をほとんど上げていないにもかかわらず、株価を上場以来172%上昇させており、特に昨年5月以降は急騰を続け、ピーク時には1000%以上の上昇を記録した。2024年のASTスペースモバイルの支出は3億ドル(約432億円)にのぼったが、収益はわずか400万ドル(約6億円)にとどまっており、その全額が宇宙防衛庁との契約による軍事衛星通信インフラの構築事業によるものだった。
そして、ASTスペースモバイルにはミーム株にはおなじみの、熱狂的な個人投資家コミュニティが存在する。Reddit(レディット)にあるASTスペースモバイルの投資フォーラムには、3万人以上のアクティブな参加者がいる。昨年9月、同社が個人投資家に向けて衛星打ち上げ見学会への参加を呼びかけた際には、約1000人が現地に駆けつけた。
「人々は、自分がどこに住んでいようと、どこで働いていようと、ブロードバンドが使えるという未来に胸を躍らせている。彼らが我々に投資して利益を得られる可能性があるとすれば、それはさらに素晴らしいことだ」とアベランは語った。


