経営・戦略

2025.06.02 10:00

妊娠中の妻と初起業し25年、誰が連続起業でマスク「スターリンク」に立ち向かう?

JLStock / Shutterstock.com

数で勝負する安価な衛星と大型アンテナの高額な衛星

ブロードバンド接続をもたらす上で、「最も安価で効率的な手段はスマホを通じての提供だ」とアベランは語る。新たな基地局を建設せずに済むASTスペースモバイルの方式であれば、通信会社にとっても大きなコスト削減につながる可能性がある。ドイツ銀行は、ASTスペースモバイルの商用サービスが稼働すれば、2026年には同社の売上が3億7000万ドル(約533億円)を超え、2030年には50億ドル(約7200億円)を上回ると予測している。これは、何千基もの衛星を打ち上げ続けなければならないスターリンクに比べ、はるかに少ない設備投資で実現できるという。

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ここでの最大の課題は、スマホが直接空の上の衛星とつながっていないと信号が届かないということだ。スターリンクやプロジェクト・カイパー、そして複数の中国企業はこの問題に対して、「衛星コンステレーション」と呼ぶ数千基の小型衛星を低軌道(LEO)に展開する手法を用いることで、地上のスマホとの接続を維持しようとしている。あるスマホから受けた信号は、衛星から衛星にバケツリレーのように受け渡され(ホッピング)、通信相手のスマホに届く。ただスマホのアンテナが小さくやり取りできるデータ量が非常に少ないため、テキストメッセージの送受信以上のことは行えない。

一方ASTスペースモバイルの衛星は、スターリンクの50倍以上というサイズのアンテナを用いてこの課題に対処しようとしている。同社の衛星は、スターリンクの衛星よりもはるかに複雑であり、数センチメートルの厚さに及ぶアンテナは、打ち上げ時に衛星に安全に搭載するためにクリーンルームでの組み立てが必要な上、打ち上げ後は軌道上で慎重に展開する必要がある。製造コストも1基あたり2100万ドル(約30億円)と、スターリンクの約120万ドル(約1億7000万円)に比べて圧倒的に高い。一方ASTスペースモバイルの衛星は耐用年数が長く、10年ごとの交換で済むが、スターリンクの衛星は5〜7年ごとに交換が必要だ。

本物のブロードバンド接続

しかしこういった異なる仕組みのおかげで、「本物のブロードバンド接続」が可能となるという。ASTスペースモバイルの5基の衛星はすでに、ベライゾンやボーダフォン、楽天、AT&Tのネットワーク上で、スマホによるビデオ通話に成功している。

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メリーランド大学の航空宇宙工学教授のジョン・バラスによると、ASTスペースモバイルの衛星は、大型アンテナを用いることでスマホへのブロードバンド接続の提供を実現しやすいという。なぜなら、これらアンテナはより広い範囲をカバーし、移動中の端末に信号を送るよう設計されているからだ。対照的に、スターリンクはもともと、地上の固定局にインターネットを届けることを想定しており、動き回ることが前提のスマホ向けに「本物のブロードバンド接続」を機能させるのはより難しい。バラスは「スターリンクは問題に直面する」と指摘した。

米AT&Tも利用開始予定、世界中の数十の通信事業者と契約

ASTスペースモバイルの主要投資家でもあるAT&Tでタワー兼ローミング部門の副社長を務めるJR・ウィルソンは、スターリンクとASTスペースモバイルの技術競争を1980年代の家庭用ビデオ規格戦争になぞらえる。「ベータは最初に登場したが、VHSと同じ特性を持っていなかった」と彼は説明する。ベータはソニーの規格で、画質は優れていたが、価格が高く録画時間も短かったために敗北した。AT&Tは、ASTスペースモバイルの衛星の数が来年さらに増えた段階で、同社のサービスを使った衛星接続を開始する予定という。

ASTスペースモバイルは現在、世界中の数十の通信事業者と契約を結んでいる。その中には、同社出資元でもあるボーダフォンや楽天、ベライゾンが含まれ、将来的に約30億人の加入者にアクセスできる可能性がある。ロサンゼルスに拠点を置くBライリー・セキュリティーズのアナリストのマイク・クロフォードは、大手通信会社と提携することで得られる利点は多いという。スターリンクが支配する家庭向け衛星インターネット市場を避けることで、ASTスペースモバイルは加入者を獲得するための費用や高額な地上インフラの整備費を負担する必要がない。パートナー各社がすでにそれを整備済みだからだ。ASTスペースモバイルは、巨大な旧来の通信会社との対立を避けられる。

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編集=上田裕資

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