経営・戦略

2025.06.02 10:00

妊娠中の妻と初起業し25年、誰が連続起業でマスク「スターリンク」に立ち向かう?

JLStock / Shutterstock.com

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昨年9月、フロリダ州ケープカナベラルに集まった観客は、スペースXのファルコン9ロケットの373回目の打ち上げを見守っていた。しかし、そのロケットは、イーロン・マスクがすでに地球周回軌道に展開している7100基以上のスターリンク衛星のひとつを運んでいたわけではなかった。代わりに搭載されていたのは、AST SpaceMobile(ASTスペースモバイル)と呼ばれる小規模なスターリンクのライバル企業による5基の衛星だった。スペースXがFCCへの提出書類で「ミーム株」と揶揄してきたものだ。

これらの衛星には、同社の初期段階の衛星ネットワークの構築に向けた約65平方メートルのアンテナが装備されていた。このアンテナとその次に登場するさらに大型の約220平方メートルのアンテナこそが、ASTスペースモバイルの創業者兼CEOのアベル・アベランが掲げる戦略の要だ。彼が狙うのは、衛星からスマホに直接インターネットを届ける新たな市場だ。

スターリンクが数千基の衛星を使って、世界のさまざまな場所に固定インターネットを提供しているのに対し、ASTスペースモバイルは超大型アンテナを用いて、わずか90基の衛星で地球全体をカバーする構想を描いている。同社は2026年末までに60基の衛星を打ち上げる計画だ。

狙いは「新興国向けの衛星経由モバイル通信」という新市場

同社の目標は、スマホが基地局の圏外でも接続できるようにすることだ。「我々のビジョンは、人々がどこにいても不便なくスマホに接続できるようにすることだ」と、54歳のアベランは語る。

これはスターリンクの主力事業ではない。スターリンクの年間123億ドル(約1.77兆円。1ドル=144円換算)の収益の大半は、家庭や企業に固定された自社のベースステーション向けのインターネットの提供によるものであり、スマホ向けではない。また、3200基以上の衛星を計画し、今年4月に衛星27基を打ち上げた、ジェフ・ベゾス率いるプロジェクト・カイパー(Project Kuiper)のビジョンにも含まれていない。

スターリンクについては、スマホを完全に無視しているわけではなく、Tモバイルと提携して、圏外でもスターリンク経由でテキストメッセージを送れる機能のベータテストを進めており、この点ではASTスペースモバイルに先んじている。また、スターリンクの評価額は3500億ドル(約50兆円)にも達しており、2021年に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてナスダックに上場したASTスペースモバイルの時価総額87億ドル(約1.26兆円)をはるかに上回っている。

それでもASTスペースモバイルは、「新興国向けの衛星経由モバイル通信」という新たな市場で巨大な収益を上げる可能性がある。同社が目指すのは欧米ではなく、ネットにほとんどアクセスできていない世界の26億人以上の発展途上国の人々の市場だ。彼らにとってスターリンクは高すぎる。スターリンクの基本的なベースステーションの価格は350ドル(約5万円)からで、月額80ドル(約1万1500円)のWi-Fi料金も必要だ。

ASTスペースモバイルの料金体系はまだ試算段階だが、同社はスマホ料金にひと月あたり数ドル(数百円程度)を追加する程度で、ネット接続を提供することを目指している。

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編集=上田裕資

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