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2025.06.09 15:15

47都道府県の伝統工芸を船旅で 「飛鳥III」と地銀がつくる海上市場〜福岡編

伝統は足枷ではなく自由のエネルギー

伝統価値を最大化するのではなく、伝統や技術の蓄積をこれまでと違う形で発揮している例もある。その代表格が酒造りだという。柳川から40キロほど北にある朝倉市の篠崎は、江戸時代から230年以上も日本酒造りを行う造り酒屋。しかし、2021年に福岡ではじめてウイスキーづくりを行い、24年にはイギリスで開催されるワールド・ウイスキー・アワード(WWA)という権威あるコンテストで、NEW MAKE部門の金賞を受賞した。

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「私も蒸留所にお邪魔しましたが、ここの凄さは独創性と、日本酒造りから焼酎、甘酒、リキュールにワイン、そして本格的なウイスキー造りまで、長年にわたって挑戦し、進化し続けているところにあります。私もテイスティングさせていただきましたが、若さは感じるけど、すごく芳醇で清冽を感じ、美味しかったですね」と、新たなジャパニーズウイスキーの誕生に五島氏の期待も高まる。

同じように独創的な酒蔵とオススメしてもらったのが、福岡市の西、糸島市にある白糸酒造。こちらも創業170年の老舗酒蔵だが、酒造の言葉を借りれば故きをたずね、新しきを創る「温故“創”新」の酒造りを行う。

「現在、日本酒の流行はいかに酒米を磨くかですが、こちらは精米歩合65%の『田中六五』が大ヒット。今のトレンドには逆行しますが、ユニークでお客様の心も掴んでいます。進化というのはいろいろありますが、こういうやり方もあるのかと驚かされます」と、五島氏がいうとおり、実は伝統産業の未来は工夫次第なのかもしれない。

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紹介されたどの事例も、伝統企業にありがちな過去に縛られることもなく、新しいことにも臆していない。それは、日本の玄関口であったこの地域が、時に蒙古襲来などの悲劇に見舞われながらも、海の向こうからやって来る技術や文化を貪欲に取り込んでいったからだろう。五島氏も「福岡の人は開放的で進取の気性に富んでいます」という。一方で、「わりと合理的なところもある」そうだ。要は、取捨選択がうまいのだ。

進取の気性に富んだ地域性は、スタートアップの多さからもわかる。福岡市市長の高島宗一郎が2012年にスタートアップ都市宣言をして以降、ベンチャー企業は著しく増えている。

「なかにはそのもっと前から活動している宇宙産業のベンチャーもあります。QPS研究所は人工衛星の開発・製造・運用とそのデータを販売する企業で、05年創業の九大発のベンチャー。既に衛星を10号機まで打ち上げていて、その部品の多くは地元の中小企業によって作られています。だから我々、地元の銀行にとってもありがたい成長ストーリーです」と五島も応援する。

先日、万博のオフィシャルストアで万博のキャラクターミャクミャクが覆面レスラーにコブラツイストを掛けられ、涙目になっている博多人形が話題を呼んだ。

作品名は「いのち輝くコブラツイスト」。つくったのは、100年以上の歴史を誇る中村人形4代目の中村弘峰。五島は3代目の中村信喬と親しく、「よく、良いものを作るためには、自分で枠を決めずに自由であるべきだとおっしゃっています。私も伝統が伝統を超えるには、ここにヒントがあると思う」と五島はいう。

自由にして柔軟。福岡の伝統とは過去を上書きしていくこと。いうなれば、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。同じように見えて福岡はいつも変わっているのだ。

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文=古賀寛明

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