人間を襲うとされる鳥類はほとんどいない。その数少ない一例が、オーストラリアで「マグパイ」と呼ばれる固有の鳥類「カササギフエガラス」だ。繁殖シーズンにヒナを守ろうとして、空から急降下してきて人間をつつくことがあり、被害者は時に大けがを負う。
とはいえ、タカやワシなどの猛禽類が、エサになり得る存在として人間に目を向けることは、現実というよりも神話の中の出来事だった。
現在は違うようだ。2025年4月24日に『Ecology and Evolution』で発表された最新研究で、アマゾンの熱帯雨林でオウギワシ(学名:Harpia harpyja)が人間の大人を攻撃したという、科学的に裏づけられた事例が報告されている。
記録上では初の事例であり、新熱帯区(南米大陸および中米のエリア)における人間と猛禽類の関係に関して、長く信じられてきた前提を覆すものだ。
オウギワシが人間を襲ったのは、南米北東部に位置するフランス領ギアナの内陸部でのことだ。2023年10月、人里離れたエコツーリズムのキャンプ地近くで、ガイドや観光客ら11人が歩いていたとき、そのうちの1人の女性(29歳)がオウギワシに襲われた。
ガイドは、事件発生の数日前から、そのオウギワシが小道の上6mあたりの枝にとまっているところを目にしていたという。そのオウギワシは当初、いら立った様子は見せていなかった。しかし突如、集団から少し遅れて歩いていた女性めがけて襲い掛かった。女性の動きに集中しているように見えたという。

このオウギワシは、強力な鉤爪で女性の頭部を攻撃した。これにより、女性は数カ所に切り傷を負い、治療を受けなくてはならなかった。幸い、同行者が割って入り、女性の頭をつかんでいたワシの鉤爪を引きはがしたところ、ワシは飛び去った。ケガはまもなく回復したが、研究者と環境保護関係者はともにショックを受けた。
オウギワシは、猛禽類のなかでも特に大型で力が強く、ナマケモノやサルなど、樹上で生活する大型の哺乳動物を捕食できる。雌は雄より体が大きく、翼開長は2m、体重が最大で20ポンド(約9kg)に達する。自分と同じくらいの大きさの獲物を運んでいる姿が観察されたことがある。
しかし、それほど大きな獲物を捕食するのはたいてい、樹木のてっぺん付近だ。オウギワシが野生環境で人間を直接襲ったという話は、これまでも聞かれたことはあるが、事実と確認できたケースはほとんどなかった。
(余談:マオリ族の伝説には、人間を殺してさらっていく巨大な鳥が登場する。現代の科学者によると、こうした言い伝えは実際に起きた出来事に由来している可能性がある。詳しくはこちら。)



