世界には、60種を超えるワシの現生種が知られる。このなかには、鳥としては規格外の巨体を誇るものもいる。
例えばフィリピンワシは、平均体重が8kgに達し、鉤爪から頭までの高さは90cmを超える。オジロワシは翼開長でトップクラスの種であり、平均で約210cmに及ぶ。
オウギワシ、オオワシ、オナガイヌワシも、現生の猛禽類としては最大級だ。
しかし、「史上最大のワシ」に出会うには、15世紀まで時をさかのぼらなければならない。この時代にはまだ、ハーストイーグルと呼ばれる巨鳥がニュージーランドの空を舞っていた。このワシと彼らの絶滅の理由について、以下に詳しく見ていこう。
ハーストイーグル:空の覇者から絶滅へ
ハーストイーグル(学名:Hieraaetus moorei)は、最大体重約15kg、翼開長2.4m~3mを誇った史上最大のワシであり、史上最強クラスの猛禽類でもあった。巨大な鉤爪のサイズはトラの鉤爪に匹敵し、力強いくちばしで獲物の頑丈な筋肉や骨を引き裂いた。
現生の猛禽類の多くは小型の獲物を狙うが、ハーストイーグルは大物狩りを好んだ。主な獲物は、体高3.6m、体重230kgに達した、飛べない巨鳥モアだった。
(余談:モアやハーストイーグルといった鳥類の絶滅は、人間活動の予期せぬ結果であったことが多い。しかしオーストラリアはかつて、ある鳥を意図的に絶滅させるべく軍事作戦を展開したことがある。同国政府がなぜ1932年にエミューに宣戦布告し、そして敗れたのかについてはこちら。)
ハーストイーグルは、ニュージーランドという孤立した環境で進化し、肉食哺乳類のいないこの土地で、頂点捕食者として君臨した。この島のユニークな生態系には、動きの遅い地上性鳥類が豊富に生息する一方で、ワシと競合する在来種はいなかった。ハーストイーグルが巨体を進化させる上で、申し分ない条件が揃っていたのだ。
ハーストイーグルの桁外れのサイズに関して、実に興味深い事実がある。近年になって判明したその出自だ。この種は従来、オーストラリア最大の現生種であるオナガイヌワシ(学名:Aquila audax)の近縁種と考えられていたが、古代DNAの分析から、異なる進化の道のりが明らかになった。
ハーストイーグルは、オーストラリアのアカヒメクマタカ(学名:Hierraetus morphnoides)の近縁種だったことが判明したのだが、アカヒメクマタカは体重1kgにも満たない世界最小クラスのワシなのだ。このような劇的な変化は、ハーストイーグルが200万年足らずのあいだにニュージーランドの生態系に適応するなかで起こったと考えられており、鳥類における島嶼(とうしょ)巨大化(Island gigantism)の最も極端な事例の一つと言える。
あまりの巨体ゆえ、ハーストイーグルが活発な捕食者だったのか、それとも、ハゲワシやコンドルのような死肉食者だったのかをめぐっては、研究者のあいだで長く議論が続いてきた。今ある証拠からは、捕食者説が優勢だ。生体力学研究から、ハーストイーグルには自身の数倍の体重をもつ獲物を捕殺する能力があったことが示唆されている。強大な鉤爪を猛烈な速さで活用し、爆発的な威力の攻撃を加えて獲物を制することができたようだ。
ただし、狩りのスタイルは現生のワシに似ていたものの、摂食行動にはハゲワシとの共通点があったと見られる。つまり、自分よりも大きな獲物を餌にするのに適したやり方で、大きな死体を引き裂いていたと見られるのだ。



