メディアアートのキュレーターとアーキビストとして第一線で活躍してきた明貫紘子。現在、消滅可能性都市・加賀を中心にコミュニティアーカイブ活動に力をいれる理由とは。
「眠っている文化・芸術資源を掘り起こし 次世代の創造性につなげる」。アーキビスト/キュレーターの明貫紘子は2021年、これをテーマに掲げ、木村悟之とともに石川県加賀市で映像ワークショップ合同会社を立ち上げた。1300年の歴史がある山中温泉中心街に拠点を構える同社は、映像制作をはじめ文化・芸術資源のアーカイブ&リサーチと、展覧会やイベントの企画・キュレーションを行う。
明貫が近年力を入れているのが、地域のコミュニティアーカイブ活動。コミュニティアーカイブとは、京都市立芸術大学 佐藤知久教授の定義によると「市民自らが、自分の暮らす地域や、関係するコミュニティにおいて生じた出来事を記録し、それをアーカイブとして継承しようとする活動のこと」。一例が、加賀市全域の郷土資料を整理・デジタル化し創造的な利活用を目指す「かがが」プロジェクトだ。地元の図書館と協働で地域おこし協力隊を受け入れて推進し、23年にアーカイブを検索できるウェブサイトを公開した。
「地域に残された資料のアクセスが容易になると、文化継承や防災に役立つほか、ローカル起業を生み出すヒントにもつながる。良いことばかりではなく“なぜ地場産業が廃れてしまったのか”といった反省も生かして、前に進むことができます」
こうしたコミュニティアーカイブ活動を全国で加速させるため、映像ワークショップは24年3月、再生可能エネルギーの卸事業を手がける「まち未来製作所」と業務提携した。同社の主力サービスe.CYCLEは、地域の再エネ発電所から電力を買い取って小売電気事業者を通じて市内の各需要家に届け、その取扱電力量に応じて一定額を地域に還元する仕組みだ。
両社はe.CYCLE事業によって還元された資金を活用して、文化・芸術資源の利活用や地域活性化をねらう。第1弾となる加賀では、前述の「かがが」の推進やトークイベントシリーズの企画などを実施。映像ワークショップとしても、課題があった資金面で大きなエンジンを得ることができた。今後は加賀をモデルケースとし、ほかのe.CYCLE導入地域(43カ所)を中心に、全国でコミュニティアーカイブを構築していく予定だ。
明貫の次の目標は、24年1月に発生した能登半島地震に関するコミュニティアーカイブ活動。シビックテック団体「Code for Noto」らと協働で震災や復興プロセスの記録のほか、震災前に撮影された写真や映像、証言を収集する。「アーティストの作品も、アニメやゲームも、個人の写真や映像も、あらゆる作品と資料はすべて貴重な“資源”。その発展的な活用の可能性を100年先まで残すのが私の仕事です」
明貫紘子◎1976年、石川県生まれ。 筑波大学芸術専門学群総合造形、岐阜県立情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。 ドナウ大学大学院メディアアートヒストリー修了。 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]学芸員を経て、「メディアアートの記録と保存」に関する研究やプロジェクトに従事。