「90后世代」のニュートラルな国際感覚
これまで筆者はネイサンCEOのような現在30代から40代前半の中国の起業家に何人か話を聞いてきた。1980年代から90年代生まれの彼らは、中国では「80后」「90后」世代と呼ばれるが、日本よりはるかに先進的なデジタル社会を前提としてビジネスを構築してきた。
たとえば「元ロックミュージシャンが深センで起業したデジタルガジェットが面白い」というコラムで紹介した「PITAKA」というブランド名のデジタル周辺機器メーカーを率いるジェームスこと鄭陽輝氏もその1人だ。
「PITAKA」はiPhone やiPadなどに使う特製保護ケースとスタンドを開発しているが、この製品の特長は、iPhoneに装着したケースをスタンドに接着させることで、ケーブルを使うことなく、マグネット式充電が可能になることだ。
筆者が都内で話を聞いた「PITAKA」の日本市場マネージャーの張麗さんは、次のようにこの製品の開発経緯について説明した。
「私たちが常々考えているのは、デジタル機器をより快適に使うためにはどんな課題を解決すればいいか。たとえば、カーナビ用のスマホを取り付けるマグネットカーマウントは2015年当時の中国にはあった。しかしケースの外側にさらに磁石を貼り付ける必要があり、見た目がカッコ悪いし、取り付けも不便だった。
そこでスマホに直接取り付ける磁気吸着一体型ケースを開発した。これに充電機能が加われば、便利でスマート。ユーザーたちはデザインもアクセサリーのようにおしゃれでなければ使いたくないと考えているはずだ」
2010年代中頃当時、中国では「DiDi」に代表される配車アプリがすでに普及していて、タクシーに限らず車に乗ると、運転席の脇に複数のスマホを並べるドライバーの姿をよく見かけたものだ。
複数の配車アプリを使うためで、支払いもスマホ決済が当たり前だった。つまり、われわれより早く配車アプリのサービスが日常化した世界の人たちだったからこそ、日本人が気づかなかったニーズを先取りできたのだ。
このような理由から、彼らは技術力もそうだが、とりわけデジタル分野において、こんなことができたら便利、これを解決してくれると使いやすいといったニーズを先読みしたアイデアをいち早く具現化するのに長けている。
さらに興味深かったのは、「PITAKA」の製造元である「深セン市零壱創新科技有限公司」の鄭陽輝CEOは1984年湖南省の生まれで、学生時代にはロックミュージシャンとして地元でならしていたという人物だったことだ。
こうした人物像も、ひと昔前の世代の中国人起業家とは異なっている。「80后」「90后」世代はニュートラルな国際感覚にも秀でており、彼らの登場は新しい中国のスタートアップのトレンドとも言えるだろう。
PLAUD Inc.に投資を行った日本のベンチャーキャピタル「カーバイドベンチャーズ」の芳川裕誠ゼネラル・パートナーは、AIレコーダー「PLAUD NOTE」と同社の将来性について次のように話す。
「これまでインターネットのトレンドにおいて、モバイルやクラウド、ビッグデータ、IOTなど何度か新しい波が訪れたが、AIはこれまでにない大きな津波のようなものだ。
言語領域の翻訳などは、現状まだガラ携時代のような段階かもしれないが、ユーザーとテクノロジーの健全なキャッチボールが機能を進化させ、今後さらに社会的なインパクトを与えていくことになる。ネイサン氏のような存在は、日本のスタートアップたちに刺激を与えることだろう。そのことに大きな意味がある」


