彼の話を聴きながら、思ったものだ。たとえば、行政や大学関係者らとの会議や打ち合わせの場で、議事録の作成を担当する若手事務員の姿をよく見かけるが、彼らは記録をまとめることに手一杯という印象がある。
本来、その場の議論に参加し、自分の意見を伝えることも大事なのに……。もし彼らの作業をこのツールがいくぶんかでも軽減してくれるとしたら、こうした業界でも必要とされるのではないだろうかと。
ネイサンCEOにはすでに明確なターゲットがあった。「この製品の市場として、すでに多様な業界での利用事例がある。主に医師や弁護士、営業職の分野だ」と彼は話した。
これらの3つの職種は、クライアントとのやりとりを正確に残しておくことは今日きわめて重要だ。最近では、建設現場のプロジェクトマネージャーが現場労働者にその日の作業スケジュールを説明する際にも利用される事例もあるという。
投資家と起業家の視点を併せ持つCEO
ネイサン・シュー(中国名は「許高」)CEOは1991年生まれ。中国IT機器大手「シャオミ(小米)」の雷軍CEOと同じ中国の湖北省仙桃市出身で、同じく武漢大学卒だ。
卒業後はDX先進国ともいわれるオランダに渡り、アムステルダム自由大学で国際経営学を専攻し、JWMゲリッツ教授の研究室に所属した。彼は、10年前に聞いた教授の次のような話に感銘を受け、ビジネスの道を志したという。
「今後10年間で、100億以上のデバイスがインターネットに接続されるようになるだろう。車や自転車、電灯のスイッチなど、あらゆるものがネットに接続され、遠隔操作が可能になる。クラウドを介して相互に通信し、テクノロジーは私たちの生活を大きく変えるはずだ」
帰国後は本国で働き、その後アメリカに渡って投資会社に勤務したのち、2021年11月、PLAUD Inc.の前身となる「Nicebuild LLC」を創業した。2025年4月、グローバルでのブランド統一や事業拡大を目的にPLAUD Inc.が新たに設立され、同社の全事業を統合する形でPLAUDグループの事業主体となった。
ネイサンCEO自身はIT技術者ではない。投資家と起業家の視点を併せ持つ彼は、ユーザーのニーズに即したハードウェアとソフトウェアをドッキングさせ、製品化したのである。
彼の新しさは、中国人起業家でありながら、中国国内ではなく、アメリカで起業し、アメリカで資金調達、製造を中国、主に深圳のようなサプライチェーンの整備されたハイテク都市に委託するというビジネスモデルにあるだろう。
背景には中国経済の低迷や米中関係の悪化もあるのだろうが、自らを中国企業とは認識せず、グローバル企業として位置づけているのだ。


