北米

2025.05.29 12:30

年間1.4兆円の経済損失か、トランプのNIHとNSF予算削減で成長が危機に

Ascannio / Shutterstock.com

研究はどのように繁栄をもたらすのか

連邦政府が科学に投資して得られるメリットとは何か。フィールドハウスとメルテンスによれば、国防以外の公的研究開発投資がもたらす総リターンは140~210%の幅がある。なかでも最も信頼がおけるモデルの推計値は171%だという。つまり、1ドル(約144円)投じれば最終的に1.71ドル(約246円)の生産高が追加で生じる計算である。これは多くの公的投資や民間投資と比べても高い。

advertisement

たとえば、スタンフォード大学のニック・ブルーム教授らが2013年に行った研究では、民間研究開発投資の社会的リターンは約55%と報告されている。また、米議会予算局(CBO)の分析では、減価償却を考慮した公共インフラ投資のリターンは約9.2%にとどまる。フィールドハウスとメルテンスは「推定された収益率は公共インフラより大幅に高く、公的資本が誤配分されている可能性を示唆する」と結論づけている。

持続する生産性

投資の効果は即座には現れない。どんぐりを植えるように、研究開発の利益が成長するには時間がかかる。フィールドハウスとメルテンスは、公共科学の経済的影響が完全に現れるには8〜10年かかると推定している。それが議会の歳出と全要素生産性(労働や民間部門の資本では説明されない経済の産出)の測定可能な増加との間の遅れである。経済学では、生産性の成長は技術進歩やノウハウ向上を反映し、長期的な経済拡大の源泉だと考えられている。

標準的な時系列分析手法であるインパルス応答関数を用いた結果、最初の数年は効果があまり表れないが、徐々に生産性が高まり、投資から10年以上を経てピークに達することが示されている。

advertisement

生産性が高まる仕組み

生産性が向上する原因は単純だ。公的研究開発にプラスのショック(大幅増額)があった後の数年で、研究者たちの活動が活性化する。

フィールドハウスは「政府の研究開発投資が知識生産関数のインプットとアウトプットの双方に活発な波及効果をもたらすことが、われわれの研究で示された」と述べている。「より多くの科学者が雇用され、技術書や学術文献が増加し、少し遅れて経済的価値が高い特許が増える。STEM分野の博士課程進学者も増える。これは知識生産のインプットであると同時に成果物でもある。さらに時間が経つと、多様なイノベーション活動が広がっていく」。

実際、フィールドハウスとメルテンスのデータによると、研究開発予算の増額後にはSTEM博士課程志願者数の上昇、科学出版物の増加、学際的かつ広く引用される特許数の伸びなど、経済的に意味のある指標が軒並み上向くという。

注目すべきは、公的研究開発が民間の研究開発を「置き換える」のではなく補完することである。彼らの分析では、政府が非国防R&Dに1ドル(約144円)投資するたびに、民間も追加で0.20ドル(約29円)を投じることが示された。この現象は「クラウディングイン(呼び水効果)」と呼ばれ、政府投資への一般的な批判——「政府が投資すると民間から市場や人材を奪う」——が誤りであることを示している。もし批判が正しければ、政府支出は民間の研究開発を減らすはずだが、実際には逆に民間投資を増やしているのである。

効果は特許と民間投資で止まらない。公的研究開発投資は、大学などでの建物や設備、施設といった物理的インフラへの新たな支出も生み出す。非国防研究開発に1ドル(約144円)投じられると、その後8年間で非国防分野の建造物ストックが1.46ドル(約210円)ぶん増える。この背景として、研究助成金に付随する間接費が、実験室や研究設備の建設・維持に回ることが挙げられる。

そして財政状況も同様に強力である。フィールドハウスとメルテンスによれば、収益率が非常に高いため、公的科学は実質的にそれ自体で採算が取れる。171%の収益率を仮定すると、GDPが1ドル(約144円)増加するごとにわずか9セント(約13円)の税収を回収できれば、連邦予算は均衡する。これは歴史的な平均をはるかに下回る。つまり、科学への資金提供は単に良い政策であるだけでなく、自己資金調達的なのである。

次ページ > なぜ政治が公的科学を損なうのか

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事