アジア

2025.05.28 12:00

「米中関税戦争」の勝利に沸く中国、「消費ブーム」到来を専門家が予測

NorthSky Films / Shutterstock.com

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長年の中国経済の研究者であるショーン・レインは、2018年に発表したベストセラー書籍『The War for China’s Wallet(中国人の財布をめぐる戦い)』の中で、中国の10億人を超える消費者に西側の企業がどう製品を売り込むかを論じた。世界の企業や投資家は今、世界第2位の経済大国である中国の消費の回復を待ち望んでいるが、レインによれば、それは間もなく始まるという。

「私は中国に28年間住んでいるが、昨年はおそらく、この国が経済に対して最も弱気な年だった」と彼は、今月初めの上海からのZoomのインタビューで語った。「若年層の失業率は18.8%に達し、企業は採用を停止し、政府や企業のインフラ向け固定資産投資の伸び率は0.1%程度だった。中国の個人貯蓄は世界最大級の20兆ドル(約2880兆円。1ドル=144円換算)に上るが、昨年7月と8月は、経済への自信と消費という点で、コロナ禍のピーク時と同じくらいひどかった」と、レインは指摘した。しかし、ここ2カ月でレインの中国経済の見通しは好転した。「私は今、過去6年間で最も中国に対して強気になっている」と、上海に本社を置く「チャイナ・マーケット・リサーチ・グループ」の創業者兼マネージングディレクターであるレインは語る。

ハーバード大学で学んだ彼の著書には、2012年の『The End of Cheap China(安い中国の終焉)』や、2014年の『The End of Copycat China(模倣中国の終焉)』、そして昨年の『The Split: Finding Opportunities in China’s Economy in the New World Older(分断:中国経済と新世界秩序におけるチャンスの見つけ方)』などが挙げられる。

中国は、関税と貿易戦争でトランプ政権に勝利した

レインの前向きな見方の原動力となっているのは、年初からの米中の貿易戦争でトランプ政権が仕掛けた最も厳しい経済制裁が、中国経済全体に大きなダメージを与えなかったことだ。

「中国人は、トランプが『解放の日』と呼んだ4月2日以来、母国が関税と貿易戦争でトランプに勝利したと感じている。彼らには強く反発する覚悟があった。なぜなら、100年以上にわたる屈辱の歴史を跳ね返したかったからだ。清朝時代の中国は西洋の列強に屈したが、それを繰り返さないというという決意があった」とレインは指摘する。

「人々は団結し、『収入が減ってもいい。売上が悪くてもいい。トランプを屈服させるんだ』と考えた。その結果、トランプは折れた。関税が145%から30%に下がったことで、中国人は自分たちがトランプに勝ったと感じている。国全体が浮かれているとは言わないが、この7〜8年で最も不安の少ない時期になっている」。

DeepSeekも中国人の自信を後押し、アニマルスピリッツが戻ってきた

さらに、中国の人工知能(AI)のスタートアップ「DeepSeek(ディープシーク)」の登場もまた、中国人に自信を与えている。ChatGPTを競合に見据える同社のチャットボットの成功は、中国人に「米国の厳しい制裁を乗り越えられる」「イノベーションを起こせる」「米国に勝てる」という思いを抱かせているとレインは指摘した。また、今年2月に習近平国家主席が民間企業のリーダーたちと会合を開き、経済成長と民間部門の貢献を重視する姿勢を示したことも、消費の自信を後押ししたという。

「中国には、この2カ月でアニマルスピリッツが戻ってきたことが見てとれる。それは消費者の信頼感や支出に反映されている。4月の小売売上高は前年同月比で5.1%増加した。これは以前の3〜4%を大きく上回っている」とレインは指摘した。「今後の6〜9カ月間にわたり雇用の減少が起こらず、所得が安定していれば、今年の年末には大規模な消費ブームが始まるだろうと私は予測している。なぜなら、昨年の7〜8月のような大量解雇や賃金カットが今は見られないからだ」。

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編集=上田裕資

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