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2025.05.28 09:00

石破首相が図らずも告げた「債務の時代」の到来 警鐘鳴らす債券市場

shutterstock.com

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米国のジョージ・W・ブッシュ元大統領は「ギリシャ人(Greeks)」のことを「グリシャ人(Grecians)」と呼んでしまったことがある。ブッシュ(子)によるこうした言い間違いは当時、失笑を買いもすれば一抹の不安も抱かせたが、ホワイトハウスのいまの主と比べれば、あの悲惨なイラク侵攻の張本人ですら戦略の天才のように見えてくる。

先週、ふと「グリシャ」のことを思い出したのは、日本の石破茂首相の発言を伝え聞いたのがきっかけだった。石破は減税を求める声を退けつつ、日本の財政状況を2010年代初頭のギリシャになぞらえた。日本の政治発言の堅苦しい基準からすると、これは物議を醸すものであり、日本のここ2週間の金利上昇にも注目を集めることになるだろう。

石破の発言は、わたしたちが突入している「債務の時代」に待ち受けていることの前触れだ。債務の時代というのは、政治や経済、地政学的な状況が債務によって左右される時代のことだ。筆者もギリシャでそれなりに長い時間を過ごした経験があるので、緊縮財政にともなう痛みがどれほど過酷だったか、また、それに先立つ1990年代後半から2000年代に初頭に、この国の政府が行っていた経済政策がいかに野放図だったか、よく知っている。

たとえば、1990年代のアンドレアス・パパンドレウ政権の末期、ギリシャがどんな状況だったのかも覚えている。当時アテネでは、彼の若い3人目の妻「ミミ」の話題で持ちきりだった。パパンドレウは実に興味深い人物であり、筆者はよく「経済学の素養があるからといって良い政策が実行できるとは限らない」例として彼を引き合いに出す。政界に入る前、彼はカリフォルニア大学バークレー校の経済学部長だったのだ。

財務相という役職は往々にして、政策スキルだけでなく政治スキルも必須になる。バラク・オバマ米政権で財務長官を務めたティモシー・ガイトナーは、前職のニューヨーク連銀総裁時代に相当な専門スキルを身につけていた。しかし、財務長官に求められる政治スキルを自分は備えていないのではないかと、当時不安だったことを著書『Stress Test(邦訳・ガイトナー回顧録)』で明かしている(政治手腕にも長けていた財務長官と言えば、やはりロバート・ルービンだろう)。そのため、オバマ政権のチームからある程度の時間をかけて政治面のコーチングを受けたという。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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