複数の異なる文化圏で育った「多文化人」にフォーカスしたポッドキャストのMCを務めるアイザック。日本のポッドキャスト市場を切り開く彼が、その先に見据えるビジョンとは。
「多文化人が活躍できる世界をつくる」──ビデオポッドキャストシリーズ「GOLDNRUSH PODCAST」のMCを務めるアイザック・Y・タクーは番組が掲げるビジョンをそう説明する。
番組はYouTubeで月間700万回以上のインプレッションを誇り、各種SNSの総フォロワー数は36万人超。ゲストにはミックスや移民など複数の異なる文化圏で育った「多文化人」を迎える。「日本は大声で話す人が少なく街が静かで驚いた」といったライトな話題から、アフリカ系ミックスがするようなドレッドヘアやドゥーラグ(頭に巻く薄手のヘッドウェア)を他文化圏の人々がすることの、いわゆる「文化の盗用」のような社会的な話題まで内容はさまざま。
アイザック自身も日本人の母とカメルーン人の父をもつミックスだ。彼がポッドキャストに出合ったのは、10代で映像作家を目指して渡米した際のこと。普段は裏方に徹している映像作家たちが自らの考えをオープンに発信している姿に衝撃を受けたと同時に、誰もが情報発信者になれるインディペンデントなメディアの力に可能性を感じ、帰国後すぐに番組を立ち上げた。
「日本では明確な差別をする人は少ないけれど、先入観から来る恐怖や不安から、無意識のうちに特別扱いしてしまう“不協和音”のようなものが多い。僕はただ自分を“人間”として扱ってほしいだけ。だからこそ自分が誰かと話すときには相手とひとりの人間として向き合うようにしています。そして、こうしたコミュニケーションの取り方を多くの人々に理解してもらうことで少しずつ“不協和音”も解消されていくのではないかと考え、ゲストのありのままの人間性にフォーカスした番組づくりを心がけています」
その言葉通り、番組のトークは長尺かつほぼノーカット。時折訪れる沈黙や会話のすれ違いさえもあえて記録している。ポッドキャスト開設当初は国内リスナーが中心だったが、転機となったのは、アフリカ系移民のゲストが「アフロに触れられたくない」と悩みを語る切り抜き動画が拡散したことだった。一気に海外へリーチが広がり、現在では海外リスナーが6割、国内リスナーが4割と、国内外がほぼ同数という構成だ。多文化人から見た日本のリアルな生活事情が注目を集め、最近では日本への移住を検討している潜在的移民層からも支持を得ている。
アイザックは昨年、弟のグヌと共にGOLDNRUSHを法人化。今後はポッドキャスト専用の録音機材を備えたレンタルスペースの運営や、ポッドキャストコンサルティング事業、さらにポッドキャスト全国ツアーなども計画しており、ポッドキャストの普及とポッドキャスターのキャリア構築にも注力したいと話す。
「誰もが自由に発信できるポッドキャストが普及すれば、マイノリティの新たな発信の場となり、マジョリティがその声を聞く。その小さな関心の連鎖がつながって、多文化人が活躍できる世界をつくることができると信じています」
アイザック・Y・タクー◎1997年、北海道札幌市生まれ。アメリカ・ロサンゼルス市で5年間映像作家として活動後、2021年に日本に帰国。2022年に「GOLDNRUSH PODCAST」を開設、総再生回数は2億回を超える。