食&酒

2025.06.09 13:30

廃校が磁場になる 地域に希望を灯すスターシェフの挑戦

糸井章太|オーベルジュオーフ エグゼクティブシェフ

糸井は「線は細いけど力強く余韻が長い、さまざまな香りがする料理」と自身の料理を表現する。
糸井は「線は細いけど力強く余韻が長い、さまざまな香りがする料理」と自身の料理を表現する。

糸井の料理には、ふんだんに土地のものが使われる。野菜やハーブ、鮮魚類は もちろん、熊や鹿などのジビエや、たけのこ、どじょうになめこまで、地元のパートナー業者から仕入れている。小松市で育ったブランド米「蛍米」は、蛍が舞うほど清らかな水で育まれ、かみしめるほどに甘みが広がり滋味深い。店に隣接する「農口尚彦研究所」のこうじや発酵食材も欠かせない素材だ。山菜の時期には自ら山に入り、野草や葉、実を採取する。シグネチャーディッシュのひとつは「オーフ巻き」。具材は季節によって替わるが、熊肉ソーセージをいちごやハーブとほうれん草のトルティーヤで包んだこの日のオーフ巻きは、見た目も美しく繊細で感動的におい しかった。力強い春の味がした。 

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「僕が思う『良い料理人』の定義は、素材に付加価値を与えられる独自のクリエイティビティをどれだけもっているか。山で取ってきた山菜も、そのままでは特別な価値はない。それを最高の料理に仕上げられるのが、良い料理人だと思っています」

そう話す糸井は「料理人が提供する一皿は、あらゆるものづくりやクリエイティブの最終出口」という哲学をもつ。「生産者の方々、食器をつくる作家さん、テーブルやカトラリー、建物を設計する建築士、そしてレストランをプロデュースする人たち。それぞれの思いを込めて、長い時間をかけて準備してきたものが、最後に集約されているのがこの一皿だから」。料理人は素材を生かしも殺しもできる。だからこそ、技術を磨き、クリエイティビティを最大限に発揮しなければならないと糸井はいう。 

「おいしいものを食べることって、日々を頑張るモチベーションになったりしますよね。カッコよく言えば“希望”になる。それができるシェフって、不思議な仕事だなと思うんです」

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世界から注目され、人を呼べる料理とは何かを考え続ける糸井だが、そのまなざしは32歳にしてすでに、後進の育成にも向けられている。 

「自分が最前線でいられる期間はものすごく短い。でも、自分が育て伝えた考え方は未来に受け継がれていきます。だから、一代限りの天才シェフより、世界中に意思を継承するシェフがたくさんいるほうがずっと価値があると思う。シェフの仕事が正当に評価され、みんなの希望になれるシェフがもっと増えたらいい」


糸井章太◎1992年、京都府生まれ。辻調理師専門学校フランス校卒業後、海外の三つ星レストランなどで研さんを積み、2014年に芦屋の「メゾン・ド・タカ」に入店。26歳のときに「RED U-35」で最年少グランプリを受賞。22年7月「Auberge “eaufeu”」開業、シェフに就任した。

文=堤 美佳子 写真=帆足宗洋(AVGVST) 編集=松崎美和子

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