「クリエイターワンダーランド日本」の可能性
コロナ禍はエンタメ業界の“確変期”だった。音楽業界はSpotifyなどストリーミングにシフトすると同時に、聴かれるようになったのはマスメディアとの関係緊密なメジャーレーベルではなくインディーズ。戦後ここまで個人が自作した音楽が広がった時期はかつてなかった。
ゲーム業界では、たった4人でつくった「NEEDY GIRL OVERDOSE」の売り上げが150万本を超え、その半分以上が中国で売れている。これはもはや“事件”とも言える状況。さらに、ゲーム実況(ライブ配信)の投稿数は2016年の7万から22年には119万に増え、国内でも大活況だ(出典:MOTTO×kamui trackerの独自集計)。その一大メジャー作品である「Minecraft」は24年Q2で47億時間視聴されており、“毎日5000万時間視聴されている”と思うとその巨大さにめまいすらする。VRを使ったメタバースも22年に大ブームを起こし、現在トレンドは落ち着いたものの、VRChatの同時接続数はコロナ前の1万人未満から25年1月には13万人超えと、順調に増えている。
このように日本はクリエイターの職人性を尊重する土壌があり、クリエイターを支えるファンダムも根強い「クリエイターワンダーランド」である。そんな日本のクリエイターにとって、今ほど“世界に出やすい”タイミングはないだろう。
こうした市場環境の“切れ目”に飛び込んできたのが、「NEXT 100」のようなアントレプレナーシップをもったクリエイターたちである。制作費はクラウドファンディングで集め、Discordでユーザーコミュニティを形成しながら、マーケティングもプロモーションもほぼ自前の工夫だけでこなし、大手企業やマスメディアの力に依存することなく、成功を手に入れた。彼らはいちクリエイターとしての技量がありながら、同時にアントレプレナーシップをもって直接ユーザーとつながることによって、「クリエイターエコノミー」の新境地を開いている。この5年で急にフォーカスが当たるようになった、このクリエイター自身が直接売り上げを生み出す市場は21年の1.3兆円から23年には1.8兆円と、メジャーを圧倒する勢いで伸長している(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調べ)。
SNSだけでなく、配信サービスにクラファンに生成AI。ツールの充実がもたらしたのは“ちょっとやってみる”という一歩目のスピードが勝敗を分ける世界線だ。クリエイターにバズを引き起こしたきっかけを聞いてみると、そこにスキルや経験といった差はない。何度も失敗を繰り返しながら、ひょんなことから何万倍の視聴を生み出す。その偶然をつかむためには、結局のところトライアンドエラーを繰り返す、つまり、これまで身につけてきた起業家的な習性・習慣が重要になるのだ。
中山淳雄◎事業家、ベンチャー企業役員、研究者、政策アドバイザーなどを兼任し、コンテンツの海外展開をライフワークとする。21年7月にRe entertainmentを創業。著書に『キャラクター大国ニッポン』『クリエイターワンダーランド』など。


