頼まれたら何でも引き受けてしまう気弱な人にとって、「ノー」と言って断ることは不可能に感じられるだろう。特定の誰かから認めてもらいたい、あるいは失望させたくない、という気持ちから、引き受けようとするのかもしれない。誰しも、非協力的な人間だと思われたくないという気持ちはある──たとえ、手に負えないほどの仕事を抱えているときであっても。
職場となれば、「ノー」と言うのはいっそう困難だ。引き受けざるを得ないこともあるだろう。しかし、断るという選択肢がある場合には、どうやったら気難しい人だという印象を与えずに断ることができるのだろうか。仕事仲間としてやりにくいタイプだとレッテルを貼られないようにするには、どう断るのが無難なのだろうか。
こうした悩みが自分のものとして感じられるとしても、それはあなただけではない。メンタルヘルスのプラットフォーム「Thriving Center of Psychology」が発表したリポートによると、米国人の58%が「何かを頼まれたときには、なかなか断ることができない」と答えている。
頼まれ事を断ることは、必ずしも最初に思っていたほど怖いことではない。仕事の中身を問わず、断ることは重要スキルの一つだと言う人さえいるかもしれない。境界線をはっきりと引いておけば、つけこまれたり、過度に働かされたりすることがなくなるし、仕事への情熱を燃やし続けられる。
以下では、「ノー」と断ることが賢明であるばかりか、必要であるシチュエーションを4つ紹介しよう。
1. 仕事を抱え込みすぎているとき
燃え尽きてしまった、と感じる人は増える一方だ。実際、McKinsey Health Institute(マッキンゼー・ヘルス・インスティチュート)のリポートでは、調査対象となった労働者のうち、「燃え尽きの症状がある」と答えた人は25%に上った。また、Z世代の労働者の40%は、「燃え尽きは、成功するためには必要だ」と考えている。
しかし実際のところ、 「ノー」と言いたいのに断れず、しょっちゅう「イエス」と応じていたら、それが裏目に出て生産性が落ちてしまう。手を広げすぎると、本当に大事な仕事に集中できなくなってしまうのだ。また、容量オーバーでは、近いうちに不満がたまって疲労困憊することになる。
仕事で手がいっぱいのときに何かを頼まれたら、こんなふうに答えてみよう。「私のことを思い出してくださって、感謝しています。力になりたいのはやまやまですが、現在は〇〇に力を入れています。この仕事とご依頼の新規プロジェクト、どちらを優先したらいいでしょうか」
感謝の言葉から始めると、前向きな印象を与えつつ、境界線を引くことができる。自分が抱えている仕事量を包み隠さず明かせば、単に余分な仕事を引き受けるのがいやで「ノー」と言っているわけではなく、付加価値の最も高い仕事は何なのかについて、戦略的な観点から選択を下していることを示せる。加えて、「自分は何を重視すべきだろうか」と、選択肢を相手に提供することで、過度な約束はせずに会話をオープンにし続けられる。



