米シリコンバレーに拠点を置くInnovaccer(イノベーサー)は、1月に2億7500万ドル(約391億円。1ドル=142円換算)という2025年のデジタルヘルスケア分野で最大の資金調達を発表した。同社の共同創業者兼CEOのアブヒナブ・シャシャンク(36)は、医療現場で整理されずに置かれたデータと人工知能(AI)ツールとを1カ所に集約する構想を描いている。
ヘルスケア分野ではここ数年で、AIチャットボットや電子カルテをはじめ、さまざまなテクノロジーの導入が進んだものの、イノベーサーのシャシャンクCEOによると、かえって非効率化しているという。
「ヘルスケア分野は、テクノロジーの導入によって、すべてが非効率になった唯一の分野だ」と彼は指摘する。大規模な医療機関は、大量のデータや多様な管理ツールを導入したが、それらを簡単に統合する手段がないことが課題だとシャシャンクは述べている。
その解決を目指すイノベーサーは5月22日、「Gravity(グラビティ)」と呼ばれる新たなソフトウェアプラットフォーム発表した。これは、医療現場のさまざまなツールや膨大なデータを一元的に管理できるよう設計しており、医療現場のスタッフが複数のポータルやウェブサイトに何度もログインする必要をなくすものだ。
Gravityは、電子カルテや保険請求データなどから情報を取り込める400以上のコネクターを搭載しており、さまざまなデータを医師や病院のスタッフが活用できるAIツール群に接続する。シャシャンクは、このプラットフォームを用いて病院がテクノロジーの統合に費やす莫大なコストを削減し、より良い患者のケアや業務の効率化につなげようとしている。
Gravityは現在、ふたつの匿名の顧客とベータテストを進めており、イノベーサーは他にも数十の医療機関と導入に向けた協議を進めているとシャシャンクは語った。同社は、価格については明かしていないが、利用量に応じた課金になると述べている。
イノベーサーは今年1月に発表したシリーズFラウンドで、今年のデジタルヘルス分野で最大となる2億7500万ドル(約391億円)の資金調達を実施した。このラウンドにおける同社の評価額は34億5000万ドル(約4899億円)とされ、累計調達額は6億7500万ドル(約959億円)に達していた。
イノベーサーの出資元には、米国最大級の医療保険会社Kaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)や米国6州で非営利医療機関を運営するBanner Health(バナーヘルス)、ライフサイエンス企業Danaher(ダナハー)の投資部門、B Capital(Bキャピタル)、Tiger Global(タイガーグローバル)、アブダビの政府系ファンドMubadala(ムバダラ)などが名を連ねている。
医療分野の「相互運用性ソリューション」市場は2兆円規模に
医療現場におけるデータの断片化の問題に取り組んでいる企業は、イノベーサーのみではない。電子医療記録システム大手のEpic(エピック)や、データ分析大手のPalantir(パランティア)などの多くのベンチャーも類似した取り組みを進めている。だが、シャシャンクは、この問題の解決を最初から念頭に置いて構築された企業には十分なチャンスがあると考えている。
「ヘルスケア・インターオペラビリティ・ソリューション(ヘルスケアにおける相互運用性ソリューション)」と呼ばれる市場の規模は、昨年の40億ドル(約5680億円)から、2034年には145億ドル(約2兆円)に拡大するとPrecedence Research(プレシデンス・リサーチ)は予測している。「今必要なのは、これらのアプリケーションを共存させて、情報交換を可能にする基盤インフラだ」とシャシャンクは語った。



