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2025.05.27 08:00

稼ぎ頭『ポケモン GO』手放し急転換、ナイアンティックが241兆円「空間AI」市場に挑む

ナイアンティックの共同創業者でCEOのジョン・ハンケ(Photo by Jon Kopaloff/Getty Images for WIRED)

ナイアンティックの共同創業者でCEOのジョン・ハンケ(Photo by Jon Kopaloff/Getty Images for WIRED)

米国のモバイルゲーム史上最大のヒット作となった『ポケモン GO(Pokémon GO)』。開発元のNiantic(ナイアンティック)は3月にゲーム事業から撤退し、人工知能(AI)に全面的に注力すると宣言して世界に衝撃を与えた。同社は、ゲーム開発部門をサウジアラビアの政府系ファンドが所有するゲームメーカー、Scopely(スコープリー)に35億ドル(約4970億円。1ドル=142円換算)で売却し、社名を「ナイアンティック・スペーシャル(Niantic Spatial)」に改めた(訳注:Spatial(スペーシャル)は 「空間の」「空間的な」といった意味の単語)。

AIが物理空間を人間のように理解し、ナビゲーション

同社は今後、外部の企業向けに現実世界を分析するAIモデルを開発する。「成功している会社がこういう形で細胞分裂を起こし、ふたつの会社に分かれるのは珍しい」とナイアンティックの共同創業者兼CEOのジョン・ハンケはフォーブスに語った。「それぞれの機会を最大限に生かすには、別々の道を進むのが最良だという結論に至った」。

ナイアンティックは現在、昨年11月に発表した新プラットフォーム「Spatial(スペーシャル)」の開発に全力を注いでいる。このプラットフォームは、企業がロボットの移動ルート設計や拡張現実(AR)グラスの機能強化に使用するAIマッピングツールを提供する。

従来の大規模言語モデル(LLM)が、AIを用いたテキストの生成を可能にしたように、ナイアンティックの「大規模地理空間モデル(LGM)」は、AIが物理空間を人間のように理解して、ナビゲーションを行うことを可能にする。このモデルは、『ポケモン GO』や『Ingress(イングレス)』などのゲームプレイヤーが歩いた累計約480億キロメートルに及ぶ位置データを利用して、現実世界を3Dで再現することが可能だ。また、データに欠けがある場合は、生成AIがそれを推定して補完する。

2033年に241兆円規模、「空間コンピューティング」市場の競争がすでに激化

ナイアンティックの事業モデルの転換は、生成AIブームがシリコンバレーにもたらした地殻変動の大きさを示している。調査会社ガートナーによれば、空間コンピューティングの市場規模は2023年の1100億ドル(15.6兆円)から2033年には1.7兆ドル(約241兆円)に成長すると予測されており、地図サービスを手がけるTomTomやグーグルといった大手がその成長を牽引する見通しだ。

この分野の競争はすでに激化している。半導体大手のエヌビディアは2021年から「Omniverse(オムニバース)」という企業向けプラットフォームを提供しており、工場などの産業現場で使う3Dシミュレーションの「デジタルツイン」を構築可能にしている。また、コンピュータービジョンの第一人者で「AIのゴッドマザー」と称されるフェイフェイ・リーも昨年、3Dのファンタジー世界を生成するAIを開発するスタートアップWorld Labs(ワールド・ラボ)を設立した。ゲーム開発や宇宙飛行士向けのシミュレーションにも応用が見込まれるテクノロジーを手がけるこの企業は、まだ製品をリリースしていないにもかかわらず、すでに評価額が10億ドル(約1420億円)に達している。

約400人のゲーム開発者が移籍、200人が今後も残る

新会社設立にあたり、ナイアンティックは既存投資家のCoatue(コーチュー)やBattery Ventures(バッテリー・ベンチャーズ)、CRVから2億5000万ドル(約355億円)を調達した。ゲーム事業の売却によってナイアンティックは、約400人のゲーム開発者をスコープリーに移籍させ、200人が今後も同社に残ることになる。

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編集=上田裕資

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