褒め言葉は警戒心を和らげるものだったりする。言葉でそうなることは珍しいが、言われた側は自分は選ばれている、理解されていると感じる。だが時として、最高の褒め言葉に感じられるフレーズが自分に修正を促す言葉であったりもする。
ある関係では、褒め言葉は相手を肯定するだけでなく密かに指示もする。褒め言葉は、あなたの中の最も便利で統制されている、あるいは最も滅茶苦茶でない部分を称える。そして気づかないうちに、あなたは相手が快適でいられるよう自分を合わせ始める。時間が経つにつれて、愛のように感じていたものはパフォーマンスのように感じられるようになる。
これは常に意図的あるいは悪意があるというわけではなく、実際、こうした褒め言葉はたいてい微妙で無意識的なものだ。だが、冷静さや柔軟な対応、無私などが繰り返し褒められることで、本来のあなたらしさが徐々に損なわれていく可能性がある。
この記事では、表面的には惜しみなく称えているように聞こえるが、愛され続けるためにそのままでいるように、という意味合いが言外に含まれるふたつの褒め言葉を紹介する。
1. 「どうしていつもそんなに落ち着いているの」
この褒め言葉は精神的な強さではなく、感情を表に出さないことを称えるのに使われる。最初はあなたが感情面で成熟し、ブレることがなく、争いを乗り越えるような人間だと評価する純粋な褒め言葉に聞こえるだろう。対立などを調停する役目を何年も担ってきた人、特に気持ちの変動が大きい家族を持つ人にとってはこの言葉は待ち望んでいた評価のように感じられるかもしれない。
だが、誰かがあなたの冷静さを褒めるのは、あなたの内なる忍耐強さについてというよりも、その人が感じる居心地の良さについて言っている場合もある。相手はあなたの心が落ち着いていることを喜んでいるわけではないかもしれない。そうではなく、あなたが感情的に反応することが当たり前のような状況でも冷静であったことに、相手は安堵しただけかもしれない。
冷静であるため、何かに異議を唱えたり対抗したり、あるいは混乱させることはない。そうした点であなたは称えられたのだ。そして、意識的であろうとなかろうと、自分が傷ついているときでさえ、冷静さを保つよう暗黙の動機づけを感じるかもしれない。なぜなら、「冷静な人」であることが相手との関係におけるあなたの価値のように感じられるからだ。
この種の褒め言葉は、特に女性や少女では幼少期や思春期における社会生活への順応からくるパターンを一層強める可能性がある。研究者シェリル・ヴァン・ダーレン・スミスによる2008年の質的研究プロジェクトは、養護教諭の目を通して少女の生活を垣間見えるようにすることでこの現象を説明している。
調査結果は、女性の本当の感情表現がどのように変化するか、私たちがすでに知っていると思われることを裏付けている。
「軽蔑される、見下される、主体性を否定される、怒りを言葉にする権利を否定されるといった経験をすると、黙り込み、この重要な感情を徐々に切り離すようになる」。
多くの少女は感情を調整することを学ぶのではなく、感情を消すことを学ぶ。極端に適応する術を身につけるのだ。ダーレン・スミス自身の言葉を借りれば、カメレオンが環境に適応するようなものだ。そうした少女たちの冷静さは必ずしも平和を反映しているのではなく、生存本能を示している。
このような感情の抑制が大人になってから恋人に賞賛されるようになると、「あなたの価値は感じがよく、あまり構わなくてもいいことにある」というメッセージが強まる。感情を表に出さないことが褒められてきたため、深く傷ついた瞬間でさえ冷静さを演じるようになるかもしれない。
だが、冷静でいることをやめると、それは自己放棄のひとつの形態になりかねない。
このことから、「自分の冷静さは本物なのか、それとも他人を支え、自分を受け入れてもらうために身につけた仮面なのか」と自問する必要がある。
覚えておいてほしいのは、真の精神的な強さとは感情を持たないことではない。つながりを失うことを恐れることなく、さまざまな感情を抱き、表現する自由を意味する。



