2. 「私が話せるのはあなただけ」
この褒め言葉は、あなたの共感をありがたく思っている一方で、感情コントロールの責任を静かにあなたに負わせている。最初は信頼を寄せていることを強調する言葉のように感じるかもしれない。あなたは選ばれた人であり、相手がようやく安心して心を開ける人間なのだ。だがこの言葉が裏で意味するところは、つながりというよりも感情的な依存かもしれない。
専門誌『Social Psychological and Personality Science(ソーシャル・サイコロジカル・アンド・パーソナリティ・サイエンス)』に2014年に掲載された研究では、感情に特化したサポート関係を特徴とする「エモーションシップ」について調べている。研究によると、人は感情的なニーズごとに異なる人を頼ることで、メンタルヘルスを向上できるのだという。
ある友人はあなたが怒りを吐き出す相手で、別の友人はあなたの不安を和らげる方法を知っている人かもしれない。このようにさまざまな人から感情をサポートしてもらうと、ひとつの人間関係ですべてを抱え込むことがないため、幸福度が高まる。
誰かがあなたに対して、話し相手はあなただけと公言すると、健全なバランスが崩れる。相手の感情を調整するシステムの中心にあなたが置かれることになり、際限なく相手に付き合わなければならないという、言葉にされないプレッシャーが生まれる。お世辞で始まったことがたちまち感情的な義務に変わってしまう。
このような動きでは、人を喜ばせる傾向のある人や、これまでも誰かの世話を焼いてきた人がターゲットになるかもしれない。あなたは必要とされていると感じ、おそらく不可欠な存在だと思いさえする。だが時間が経つにつれ、自分が必要不可欠な存在であるという感覚は自分の境界線を侵食し、心の余裕を蝕む。そして自分が何を必要としているかを問うことをやめてしまう。なぜなら、いつも他人の感情の方が優先されるべきのように思えるからだ。
このような褒め言葉は、真の親密さを生み出すどころか、感情的な縛りを生み出しかねない。つまり、あなたのサポートが相手の命綱になり、責任が曖昧になってしまう。こうしたことから、この褒め言葉を吸収する前に一歩立ち止まってこう問いたい。「私という人間が評価されているのだろうか。それとも相手の感情的なニーズに常に応えられるように仕向けているだけなのだろうか」と。
本当の親密さとは、相手の唯一の安全な場所になることではない。互いが健全に依存し合っていることを意味する。
褒め言葉に「裏の意図」があるかどうかを実際に見分ける方法
誰かに褒められると、良い気分になるのは自然なことだ。だがすべての褒め言葉が手放しの称賛であるわけではない。時には、褒め言葉はあなたを認めるためではなく、あなたを形作るためのものであることもある。褒め言葉があなたの素晴らしさを称えているのではなく、相手が望む方へとあなたを誘導しようとしていることを察知する方法を紹介しよう。
1. あなたのどの部分が褒められているのかに注意を払う
「とても落ち着いている」「いつも側にいてくれる」「決して文句を言わない」と褒められているだろうか。そうした言葉はポジティブに聞こえるかもしれないが、他の人の生活を楽にする特徴を強調していることが多く、あなたにとって必ずしも満足するものとは限らない。あなたの正直さや境界線について褒められることが少ないとしたら、あなたは相手に受け入れられているのではなく、好意的にみられているのかもしれない。よく言われる褒め言葉のリストを作ってみるのも一案だ。そしてそれらの褒め言葉の横に、その状態を維持するためにあなたが犠牲にしていることを書き出す。常に自分が受け取る以上のものを相手に与えているのなら、あなたに向けられる褒め言葉は贈り物に見せかけたエサかもしれない。
2. 表になっていないルールを探す
褒め言葉には密かに期待が含まれているものもある。
・「あなたはとてもおおらかだ」というのは「主張するな」という意味かもしれない
・「私を理解してくれるのはあなただけだ」というのは「いつでも私をなだめてほしい」という意味かもしれない
・「あなたはいつも強い」というのは「絶対に調子を崩さないで」という意味かもしれない
愛され続けるために、その愛される自分でい続けなければならないと感じるなら、それは褒め言葉ではなく契約なのだ。なので、自問してみよう。もし、あなたがそのような自分でいるのをやめたらどうなるだろうか。相手の愛情は変わらないだろうか、それとも何かが大きく変わるだろうか。


