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2025.05.26 08:00

「お前はバカだ」が原動力―苦境の「在宅フィットネス」に挑むスポーツ賭博ビリオネア

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苦境にあえぐ「在宅フィットネス」業界

トナルは、4年前にレブロン・ジェームズやセリーナ・ウィリアムズなどの著名人から評価額16億ドル(約2272億円)で2億5000万ドル(約355億円)を調達したが、赤字を垂れ流した結果、2023年には評価額を6億ドル(約852億円)にまで下げて、1億3000万ドル(約185億円)を調達した。また、ジャスティン・ティンバーレイクらの支援を受けたHydrow(ハイドロウ)も、少なくとも2度のレイオフを経て、ようやく黒字化を達成したと主張している。一方、ルルレモンは、2020年に5億ドル(約710億円)で買収したミラーを3年後に閉鎖した。

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また、この分野で最も有名なペロトンは、300万人もの会員を抱えながらも、依然として深刻な赤字に苦しんでいる。同社は昨年、EBITDA (利払い・税引き・償却前利益)ベースではわずかな黒字を計上したが、最終損益では5億5200万ドル(約784億円)の純損失を計上しており、全体としてはまだ大きな赤字企業だ。創業約13年のペロトンの株価は、2021年1月のコロナ禍の中のピーク時から96%も下落している。同社のCEOのピーター・スターンは、直近の決算説明会で「まだ困難な課題を抱えている」と認めていた。

複数のスポーツクラブを傘下に持つタウン・スポーツ・インターナショナルの元CEOで、フィットネス分野の投資家アレックス・アリマネスティアヌは、在宅フィットネス業界が今後も残ると見ているが、「無駄なガジェット」が多すぎると指摘する。「自宅に筋トレマシンを置きたい人の大半は、昔ながらの機器で十分だというのが私の見解だ。今風のスマートなマシンは、見栄えはいいが、正直なところ必要とは思えない」と彼は語った。

証券会社BMOキャピタル・マーケッツでペロトンをカバーするアナリストのシメオン・シーゲルは、フィットネス業界が「気まぐれな消費者に翻弄される非常に難しい分野」だと語り、プロダクトの設計・開発から大量生産への移行、顧客の獲得、さらにその維持に多額の費用がかかる点を指摘した。

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「ペロトンは、自社が無限に成長可能だと信じていた。しかし、ネットフリックスを観る人々の市場規模と、自転車やトレッドミルに乗る人々の市場規模はまったく違う」とシーゲルは語った。

馬鹿にされることこそが、私を突き動かす力

しかし、こうした懐疑的な見方こそが、マッケンジーをこの分野に駆り立てる原動力になっている。「私がSBテックを始めたときに、『シャローム、お前はバカだ。持っている金も持っていない金も、全部突っ込んで、家族まで巻き込んで破滅するつもりか?』と周りの人には言われた。でも、そうやって馬鹿にされることこそが、私を突き動かす力なんだ」と彼は語る。

アンプ・フィットネスは最近、昨年10月から予約注文を受け付けていた約1万台のマシンを全米各地の顧客に納品し、フォーブス推計で約2000万ドル(約28億円)の収益を上げた。同社は、年内に2万台の販売を目指し、2026年末までにその数を倍以上に増やす計画だ。アンプ・フィットネスは、ペロトンが経験したような製品のリコールを避け、顧客に満足とサポートを提供するために、会社の成長をあえて緩やかなものにしているとマッケンジーは説明する。「私たちの会社のプロダクトの需要は非常に高い。この会社は、ドラフトキングスよりも大きな存在になるかもしれない」と彼は真顔で語る。

マッケンジーは、自らの会社をハードウェア企業とは考えておらず、データとウェルネスの企業だと考えている。アンプ・フィットネスは現在、シリーズAの資金調達を検討中だというが、ここには課題があるかもしれない。フィットネス関連のスタートアップへの総投資額は、2021年には60億ドル(約8520億円)以上に達していたが、2023年には20億ドル(約2840億円)を下回ったとCrunchbaseは報じていた。

スポーツに夢中になる人は、最悪の場合でもケガをする程度で済む

しかし、1976年にテルアビブで生まれたマッケンジーには、フィットネス分野に賭ける大きな理由がある。不動産開発業を営んでいた彼の父は、彼が18歳のときにまだ59歳という若さで心臓発作によって亡くなっていた。「そのことが私の人生を完全に変えた」とマッケンジーは語る。

彼は、イスラエル国防軍の兵站部隊で3年間の兵役を終えた後の2001年に、パートナーとともにオンラインスポーツ賭博会社「10Bet」を設立した。しかし、同社は大手の賭博サイトとの競争に苦戦した後ほぼ破産した(兄弟に売却)。2007年SBテックと名付けた新たな企業を立ち上げ、事業モデルを他社に賭博向けソフトウェアを販売する方向に切り替えて展開した。

その後、世界中のギャンブル企業や宝くじ業者を顧客とするようになった同社の売上高は、2020年4月にドラフトキングスとの合併を経て上場する以前に、年間1億1000万ドル(約156億円)近くに達し、約1300人の従業員を抱えていた。

マッケンジーは現在、ニューヨークのマンハッタンの「ビリオネアズ・ロウ(億万長者通り)」と呼ばれる通りに建つ超高級タワーマンションの50階の部屋で暮らしている。セントラルパークに面した5000万ドル(約71億円)のこの部屋は、彼のスポーツ賭博向けソフトウェアへの賭けがもたらしたものだ。

そして、マッケンジーは今、スポーツ賭博と同じくらいの中毒性があるが、それほど破滅的ではないものに賭けようとしている。「ギャンブルにのめり込む人は、時に、自分の手に負えないほどの借金を背負いこむことがある。でもスポーツに夢中になる人は、最悪の場合でもケガをする程度で済む」と彼は語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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