Morgan Stanleyのアナリスト、Adam Jonasは、8月16日に顧客に向けて発信した書簡の中でこのように書いた。イーロン・マスク率いるテスラが、自動車業界の新しい流れであるカーシェアリング、コネクテッドカー、 ロボットカーの世界でリーダーになるかもしれないとしている。
「自動運転技術や、機械学習に強みを持つ企業は、今日の道路交通の非効率性をビジネスチャンスにすることができる。車を個人で所有する時代から、共同所有する時代に変わり、ロボットが運転する時代に変われば、この市場において、テスラが大きなシェアを獲得できるだろう」というのが彼らは予測する。
現在(8月18日時点)のテスラの時価総額は320億ドル(約4兆円)だが、これは市場をGM、Ford、トヨタなどの旧来の自動車メーカーが独占する世界での評価だ。テクノロジーの進化や自動車のネットワーク化によって、テスラがこれらの巨大自動車メーカーを追い抜くことができたら、時価総額は一体どれ位の金額になるだろうか?
あくまで空想の話だが、Morgan Stanleyは、テスラには二通りのアプローチがあるとしている。それは、車を売ることと、マイルを売ることだ。後者についてJonasは「Tesla Mobility」と呼び、2029年までにテスラの売上は3倍に増え、「Tesla Mobility」だけで既存のビジネスと同等の価値がつく可能性があるとしている。
Morgan Stanleyが描く未来像には、SFの要素が含まれているが、そうした世界の実現に向けた取り組みはもう始まっている。テスラの作る電気自動車は既にネットワーク化されているし、搭載しているファームウェアは、ハードウェアを変更しなくてもアップデートが可能だ。カーシェアリングの概念は、Uberやライバル企業によって、少なくとも大都市圏においては広く普及している。
そうなると、テスラとUberが未来への挑戦に向けて手を結ぶかもしれない。その可能性について、8月5日に行われたテスラの四半期決算発表で、Jonasは提起している。
Morgan Stanleyは、テスラはこれまで世の中の期待を全て実現してきたことを考慮し、同社の適正株価は611ドルだとしている。これは、8月16日朝時点での株価の253ドルの倍以上にのぼる。このような取組みについてマスクはこれまで一切口にしていない。しかし、Jonasはテスラが新たな動きを始めている根拠として、同社が2020年までの事業計画に盛り込んでいる設備投資と研究開発の金額が、これまでの実績値や、自動車の製造計画に見合わない大きな規模であることを挙げている。
Morgan Stanleyは、今後起こるであろう自動車産業の変革において、既存の自動車メーカーから覇権を奪おうとしているのはテスラだけではないと指摘している。
カーシェアリング、電気自動車、ロボットカ―といった新たな自動車産業の領域に、テック企業が次々と参入している。Jonasの言う「Tesla Mobility」は早期に実現するかもしれない。フォーブスでは、Google、Apple、Uberなどの取組みについて何度も報じている。テスラは、人材獲得、資金調達、先行者利益の獲得、地域政府との協力など、新たな道路交通の実現に向けて格闘しているが、それはライバル企業も同様だ。
こうした取組みは、テスラにどれだけの価値をもたらすのだろうか?「素晴らしい製品やサービスであることの印は、広く普及している既存の選択肢よりも大幅に安いか優れていることだ」とJonasは書簡に書いている。テスラがこれを実現できれば、時価総額は大きく向上するだろう。
8月16日の朝、テスラ株は大幅に値を上げたが、Jonasは投資家が安易に興奮することに警鐘を鳴らしている。Jonasは、この領域のベンチャーが18ヶ月以内に何かしらの発表を行うことを想定しているものの、いつ、どのような形で新たな製品が立ち上がるのかについては、まだ不確定要素が多いとしている。
これまでに挙がっていない名前も含め、数多くの企業が自動車産業の効率化を目指すことが予想されるため、投資家にとって、企業間の競争は特に重視するべき要素になるだろう。
電気自動車からバッテリー事業まで、投資家たちがMuskとテスラの新規事業を全面的に支持してきたことを考慮すると、テスラは今起こりつつある自動車産業の変革において主要なプレーヤーになる可能性は高い。しかし、潤沢な資金を持つライバルは他にも大勢現れるだろう。
テスラは先週新たな増資を完了したばかりだが、8月16日朝の株価は4%以上値上がりし、年初からは14%値上がりしていた。
※本記事は8月18日、フォーブス米国版で公開された。