経営・戦略

2025.05.30 13:30

トレード中毒から億万長者へ 依存脱却で目指す新戦略

kk1hb / Shutterstock.com

兄弟ふたりで始めた事業は、16年に政府が国民に固有のID番号を使ってのオンライン証券口座開設を認めたことで急成長し、現在は従業員1200人を擁するまでになっている。その後のコロナ危機で普及した在宅勤務で柔軟な働き方ができるようになり、株式取引を始める人が増えた。政府のリサーチ機関であるインド・ブランド・エクイティ財団(IBEF)によると、インドでは 20年以降、新たに投資を始めた人の数が過去最高の1億人にのぼった。さらにインド株式市場は強気相場が続き、ベンチマークであるBSEセンセックス指標は20年3月以降3倍近くにまで上昇している。

advertisement

ゼロダはこの波に乗り、同社の株式のほぼ100%を保有する兄弟(ニティンとニキルの割合はおよそ約60-40%)には大きな利益がもたらされた。ふたりは20年、保有資産合計15億5000万ドルでインドのビリオネアリストの仲間入りを果たし、23年にはともに個人ビリオネアとして世界長者番付にランクインした。ふたりは富裕層にありがちなこれ見よがしな派手さを避けているが、富の恩恵から影響を受けていないわけではない。「富がもたらす自由を心から楽しんでいます。スタートアップや非営利セクターを支援できるのです」

そう話すニティンは、妻と弟から贈られたメルセデスベンツSクラスに乗っている。

ニキルは、約5年もの間オフィスに寝泊まりし、ソファをベッド代わりにし、シャワーを取りつけて暮らしていた。今ではインドで最も若いビリオネアであり、兄のように控えめではない。 

advertisement

「私は聖人ではありません。フェラーリはもってませんが、ベンツとBMWに乗っています」(ニキル) 

 ふたりは、気候変動対策と環境保護のための非営利団体で100億ルピーを有するゼロダのレインマター財団を通じて、築いた富を社会に還元している。

順風満帆のふたりだが、個人的につらい経験もしている。23年12月に父が突然他界し、翌1月にはニティンが脳卒中を起こした。水泳、サイクリング、ランニングが趣味で、鍛え上げた体をしているにもかかわらずだ。脳卒中からはほぼ回復したが、今回の経験から得た教訓があると彼は言う。 

「人生でコントロールできるものは何もありません。結果はコントロールできない。コントロールできるのはインプットだけなのです。年齢を重ねるうちにわかることではありますが」(ニティン)


ゼロダ◎2010年にインドのバンガロールを拠点に創業したオンラインのディスカウントブローカー。社名は、「ゼロ」と「ローダ」(サンスクリット語で「障壁」の意)を組み合わせたもの。個人投 資家向け売買手数料を無料とし、トレーダー向けでも極めて低額に設定。24年9月のアクティブ顧客数は880万人。現在、従業員約1200人を擁する。

ニティン・カマスとニキル・カマス◎ともにゼロダの創業者。兄のニティンが最高経営責任者(CEO)としてオペレーションと戦略を統括、最高財務責任者(CFO)の弟のニキルは新しいベンチャーなどにかかわる。ふたりの資産は合計84億ドル。バンガロールで育ち、10代からコールセンターで働いて事業資金をつくった。

文=アヌラダ・ラフナサン 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事