SEBIによる新規制は、近年個人トレーダーの数が急激に増えた株式のデリバティブ市場の乱高下を抑えることを目的としているSEBIの24年9月の報告書によれば、同年3月までの3年間で個人トレーダーの数は倍増して960万人となり、90%が同期間に合計1810億ルピー近い損失を出した。その多くは30歳未満で年収50万ルピー未満の人々だ。
新規制では、最低取引単位を引き上げる、契約失効日に余裕をもたせる、ポジション・サイズをより頻繁にモニターするなどの措置が提案されており、いずれも初期費用を引き上げ、取引機会を減らすことで参入障壁にしようという狙いがある。加えてSEBIは24年10月、やはり過度な取引を抑える目的で、大量の取引を扱うゼロダなどの仲介業者に取引所が支払っていたリベートを廃止した。
こうした変更が市場取引の持続的減少につながると誰もが考えているわけではない。トレーダーはやがてニューノーマルに適応していくからだ。ある証券会社のリサーチャーは、ディスカウントブローカーの取引量は2、3カ月の間は影響を受けるものの、市場が下落または停滞するのでない限り、取引量はすぐに回復すると見ている。ゼロダは先物・オプションの取引手数料に依存しているため、SEBIの新規制から特に大きな影響を受ける可能性が高いが、今回の難局にしっかりと対応できるはずだとアナリストたちはみている。
カマス兄弟はすでに先のことを考え始めている。ゼロダの顧客の約70%は株式や投資信託を買う個人投資家であり、仲介手数料は払わない。残りの顧客には先物やオプションのトレーダーが含まれ、オプションには1取引ごとに一律20ルピー、先物は1取引ごとに20ルピーまたは0.03%のどちらか安いほうが請求される。
「手数料を払わない顧客から収益を得る方法を考え出す必要があります。我々はデリバティブ取引への依存度を高めすぎでした」(ニティン)
カマス兄弟の将来の戦略は多岐にわたり、マージン・トレード・ファンディング(MTF)などデリバティブでない商品の開発や、金融サービスへの活動分野拡大も含まれている。つまり、ゼロダ以外の事業を拡大しようというのだ。そのひとつ、レインマター・キャピタルは16年以降、フィンテック、気候、保健、コンテンツ制作が専門の150以上のスタートアップに約68億ルピーを投資してきたベンチャー・キャピタル・ファンドだ。投資先には、AIを利用して非伝染性疾患を検知するAIヘルス・ハイウェイや、オーガニック酪農スタートアップのアクシャヤカルパなどが含まれる。
もうひとつ利益をもたらしそうな事業が、インデックス、エクイティ、金に連動する上場投資信託(ETF)のゼロダ・ファンド・ハウスである。同社の運用資産は300億ルピーにのぼり、レインマター・キャピタルが資金を提供するフィンテックのスタートアップバンガロールに本拠を置くスモールケースとのジョイント・ベンチャーとして運営されている。ほかのベンチャーとしては、証券担保貸付で3月時点の貸付規模30億ルピーのゼロダ・キャピタル、ゼロダと金融ニュース企業フィンショッツのパートナーシップとしてオンライン・プラットフォームで健康保険と生命 保険を販売するディット・インシュアランスがある。
「いずれもまだ大きな業績は上げていませんが、今後5-10年でかなりの規模の事業に成長する可能性があります」(ニティン)


