シデメンに取得できた土地は1500平方メートル。決して広くはないが、「量ではなく質を極める」という判断で、ヴィラの数を3棟に絞り、隣が見えない距離を保った。
ヴィラの扉を開ければ、竹をダイナミックに使った高い天井と、純白のウォータースライダー付きプライベートプールが印象的に映る。その奥にはアグン山と棚田が広がり、さえぎる人工物は一つとてない。
シャンプーやハンドクリームなどのバスアメニティは、3種類から好きな香りを選べる。枕も5~6種類から選択可能。滞在そのものがカスタマイズ体験になるように設計されている。
夜のターンダウンでは、シネマスクリーンが天井から下され、ハウスメイドのポップコーンとともに、無数の星が煌めく夜空をバックに映画鑑賞を楽しむこともできる。このような非日常体験を創出するために、アルベルトは日々印象に残った事象をメモに取り、リゾート運営に活かしているという。
「デザイン、美学、細部へのこだわりが忘れられない滞在を形づくります。没入感とインパクトのあるゲスト体験を保証するために、ほんの小さなディテールでも洗練させ、改善する方法を常に考えています」
これらの努力の積み重ねが、NUMAらしい「感情に響く時空間」としてゲストの記憶に残っていく。
「今は拡張するよりも、体験の質をより磨くことに全力を注ぎたい。細部に宿る感動こそが、リピーターを生むのです」と語るジョルジオ。実際にNUMAは、年間のほとんどが100%、雨季の3カ月でも約70%という高い稼働率を誇る。既に翌年の予約も入っているという。
サステナビリティと地元との共生
NUMAの核をなすもう一つの哲学が、サステナビリティと地元との共生だ。建築面では、竹や再生チーク材、火山石など、地元で調達した自然素材を使用。運営面では、太陽エネルギーとエネルギー効率の高いシステムを組み合わせている。
使い捨てプラスチックは一切使用せず、有機廃棄物は敷地内で堆肥化し、環境に優しい洗浄剤を使用。農産物のほとんどは、地元の有機農場から調達しており、二酸化炭素排出量を削減し、地元経済を支えている。
インドネシアでは、ローカルの人材を40%以上雇用する義務がある。NUMAでも17人のスタッフの多くが地元出身だ。欧米と違う生活習慣や文化を持つスタッフの意識を変えることは、決して容易くない。2つ星ホテル経験者に、昼と夜のライティングの調整や、アメニティや家具の細かな配置の重要性など、ラグジュアリーホテルのサービス水準を徹底するには、かなりの目配せが必要だ。それはコミュニケーションを密にすることでしか解決できない。


