一見変わらない料理のようで、以前よりはるかに手をかけている。その結果、コースの中心である煮物椀が際だつのだ。
出汁だけを取り上げてみても、先代の時代とはこれだけの違いがある。時代に合わせての変化だというが、同じところにとどまるのではなく、日々、より美味しい料理を、という努力の賜物。「このような革新の連続が伝統になってくれるということを信じています」。

もう一つ、「瓢亭」の名物である鯛のお造りに添える醤油も大きく変化した。従来は、醬油に追い鰹をしてじっくり煮出した旨みの濃い土佐醬油を使っていたが、それでは醤油の味と香りが強くて鯛の味わいが飲み込まれてしまうことがある。そこでトマトのグルタミン酸と鯛のイノシン酸を掛け合わせて旨みを倍増することで思いついた一品がトマト醤油だ。
トマトを120℃で40分焼き、淡口醬油と合わせてさっと煮出し、漉して使う。最初はトマトのインパクトが強いが、咀嚼するうちに鯛の旨みが顔を出してきて、そのグラデーションが心地いい。調理工程が複雑なこともあり、本店でしか出していないが、鯛のお造りがぐっと華やいだ。これとて、塀から片足を出したような変化である。
義弘氏は言う。
「次の世代、その次の世代へバトンをつなぐと考えたとき、大切なことはファンを増やすことだと思うんです。理解者を増やすというか。現在は調理師学校ばかりでなく、大学でもいくつも講義をもっています。日本料理アカデミーを通して、小学生に味覚の授業、食育も行っている。徐々にではあるが、インバウンド客のリピーターも増えています。単なる物見遊山ではなく、瓢亭の世界観を理解し、料理を愛する外国人が増えてきているのは本当に嬉しいことです」
食の根幹には無病息災、五穀豊穣、子孫繁栄という考え方がある。また季節ごとに祭事に紐づいた食がある。そうした食の本質を大切に、日本の食をよりたくさんの人々と共に育んでいく。400年の伝統の上に立つ店主の願いである。


